俺と、甘いキスを。

グレーの作業服姿の花の父が、納屋の方から歩いてくる。
俺は縁側の窓を開けた。
「いやぁ、まいった、まいった」
と、後頭部に手をやりながら呟いている。
「どうしたんですか」と聞くと、納屋にある耕運機の調子が悪い、と困っていた。

「耕運機……おじさん、それ、僕に見せてくれますか」

こんなときでも、機械いじりの血が騒いでしまう。

俺は花が買ってきた靴下を履き、サンダルを借りて外に出た。



「AIドールのプログラム修正が全て終了して、週末にオオトリ産業システムの担当者が引取りに来て、桐谷ハウジングに納入するそうです」

夕方、花は研究所から帰宅するとすぐに俺のいる部屋に来て報告した。
AIドール「ミライ」の最終チェックは柏原さんがやるので、彼がOKを出せば完了ということだ。
「そうか、教えてくれてありがとう。で、それは?」
と、俺は花の横にある紙袋を見る。
花は「これは」と言いながら、俺に差し出した。中には見覚えのある衣類が入っている。

彼女は困惑しながら言う。
「あの、ごめんなさい。勝手に研究室に入ってクローゼットから右京さんの服やパジャマを持ってきました。下着は買ったものがありますけど、パジャマはずっと兄のものを着せるのも申し訳ないので……」

内から湧いてくる感情をぐっと抑える。
俺の世話を焼く花が可愛い。
「花、すげぇ抱きしめたい」
「えっ」
キョトンとする花を、両腕に閉じ込める。
柔らくて甘い匂いのする花の体を、ぎゅっと力を入れて抱きしめた。
「ありがとう、花」
花は俺の胸に顔を埋めて「うん」と、頷いた。
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