俺と、甘いキスを。


夕食後のことだった。
俺の寝泊まりしているこの部屋で花と話をしていると、突然、家の中で音がしたと同時に話し声が聞こえて騒がしくなった。
花も物音や声に気づいて縁側の方に視線を向けた。
「誰か来たのかしら」
と呟くと、縁側をこちらに歩いてくる足音が聞こえた。

スッと障子が開いて、その人物が俺たちの前に立つ。障子の鴨居に頭が届きそうなくらいの高身長、肩幅の広いガッシリとした体つきの男性。その刺すような鋭い視線は、すぐに俺に向けられた。

花の兄、川畑暁だ。

花の態度が途端に変わり、不機嫌に兄を睨んだ。
「ちょっと、何しに来たの?」
と、拒否的な言い方をされているにも関わらず、彼は俺に近づいた。
家を出ているといっても、花の兄であり、この家の長男だ。
俺は軽く頭を下げた。
「こんばんは。体調を崩してしまい、ご好意に甘えてお世話になっていまっ……」
同時に、俺の上半身が浮き上がった。

「うっ……」
スウェットの胸ぐらを掴まれ、体がそのまま持ち上げられる。首が締めつけられて、息ができない。

「やめてっ!」
花の大きな叫び声が聞こえた。
彼女が俺から兄を離そうと、その腕を両手で引っ張っているが、彼が片方の手で簡単に払い除けてしまった。
力が強かったのか、花の体が後ろへ勢いよく倒れ、「ゴツッ」という鈍い音と花の短い呻き声が聞こえた。
「は、はなっ……」
倒れた花へ顔を向けようとしたが、首をギリギリと締められて思うように動けない。

──兄貴なのに、花を傷つけた。

頭の中が怒りに満ちた俺は、目の前の花の兄を睨む。俺を締め上げる手首を掴んで、離そうと力を入れた。
「アンタって人は……」
何故妹を傷つけるのか、容赦なく力を入れる彼に精一杯の抵抗をした。
さすが日常的に体を鍛えている人に対して、一応病人の体力には限度があるのを思い知らされる。どんどん彼の腕力が上がり、彼は獣のように獲物を狙うような目で「ゼェ、ゼェ」と息を荒くして威嚇してきた。

花は倒れたままなのだろうか。怪我をしてうるのだろうか。
そして俺も頭の中が白く朦朧となり、腕が力なくだらりと下がった。

──ヤバい。

そう思った。


「そこまでにしてもらおうか」

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