俺と、甘いキスを。
「暁さん、でしたっけ?少し強めに腕を捻ってしまいましたが、大丈夫でしたか?」
兄貴は先程の形相とは打って変わって愛想良く話しかける。花の兄、暁さんは無愛想に目を逸らしたまま「問題ない」とだけ答えた。
間を置かずに「そうですか」と兄が答えて頷くと話を進めた。
「さて、僕には先程の状況が飲み込めていないので教えていただきたいのですが。暁さんは弟の蒼士に掴みかかっていましたが、一体どうしてそんなことに?それとも蒼士が暁さんや花ちゃんに失礼があったのでしょうか」
柔らかな笑みを浮かべていても、じっと見据える兄貴の目は笑っていない。
暁さんは「はぁ」と短く息を吐くと、
「許せなかったんだ」
と言い、俺をギロリと睨んだ。
「俺だって職業柄暇じゃないし、三十を過ぎた妹にあれこれと口を出す気はない。だが、花が既婚者の男と付き合いがあるというなら話は別だ。その男が俺の実家にいて花が看病していると聞けば、普通は兄として心配するのは当然だろう。身元がハッキリしているとか、そんなことはどうでもいいんだよ。妹が上手い口車に乗せられて、不倫とか愛人とかに巻き込まれているかと思うと腹が立って許せなかったんだ」
なるほど、花の親が暁さんに話したのだろう。
兄として、当然の気持ちだ。
しかし。
俺は暁さんがここに乗り込んでくる直前、ついさっきまで花と話していたのだ。彼、暁さんのことで。
花が俺に話していた内容が、彼の言っていることが随分食い違っていることに少々の疑問を感じた。
『兄は私を嫌っているのよ。だから、あんなことを言ったんだわ』
花は俺にそう言ったのだ。