俺と、甘いキスを。

「お前がみている前であんなことって……俺が一体何を言ったんだよ?」
さすがの暁さんも焦らされた感じになって、花への口調が荒くなっていく。
花も眉間にシワを寄せて口を尖らせた。
「これだけ言って、まだ思い出せないの?」
と、喧嘩腰の口調だ。
俺は花の背中をゆっくりと撫でて「落ち着け」と、耳元で囁いた。俺に寄り添う花は苦々しい表情で暁さんを睨み、暁さんも額に青筋を立てて鬼のような形相で俺たちを見ていた。
兄貴はこの状況を静観している。

互いに一歩も引かない二人に、俺は話が進まないと判断して口を挟んだ。
「僕が彼女に代わって話してもいいですか」
この意見に、吊り上がった両目が俺へギロリと向いた。それを敢えて無視して話し始めることにした。

「このことは、僕もついさっき花から教えてもらったことなんです。花が中学生の頃、学校から帰宅すると家の前で暁さんたちが立ち話をしていたのを見かけたそうです。その時、聞こえてきた会話が、自分たちの妹のことだったんです」
「俺たちの、妹のこと……?」
暁さんはすっかり忘れてしまっていたのか、顎に手を当てて考え込む。

「友人たちはそれぞれ自分の妹が可愛いと言い合って、自慢していたことを覚えていますか。その時、あなたは言ったんです」


『俺の妹が、お前らの妹くらい可愛ければよかったのに』


俺の発した言葉に、暁さんはハッと思い出したように頭を上げ、目を開いて花を見つめた。
「お前、あれを聞いていたのか……」
と、次第に居心地の悪そうな顔へと変わっていく。
花は暁さんと顔を合わせようとせず、ずっと畳の一点を凝視したままだ。

俺はそんな花の様子を見ながら、話を続けた。
「彼女は「自分は可愛くないから兄に嫌われているのだ」と思い、暁さんを頼ることをやめて避けるようになりました。当時、たった二人の兄妹なのに、兄に嫌われていると知った花はとても悲しかった、と教えてくれました」
「いや、あれはっ」
と、暁さんは言い訳にも聞こえる口調で腰を浮かせて、座卓から俺の方へ乗りあげようとした。しかし、花に視線が行くと萎んだ風船のように座り直す。
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