俺と、甘いキスを。


夕方、俺は花の父にここに自分の車を置かせてもらう許可をもらい、研究所にある車を取りに行くついでに花を迎えに行こうと家を出た。彼女にはメールで仕事が終わったら駐車場に来るように伝えてある。
研究所の社員駐車場は警備員のいる正門の手前にあるので、多くの社員たちに見られることはない。俺は花が研究室から持ち帰ってきたニットのパーカーとデニムで、花の父から借りた傘をさして駐車場に立っていた。

スマホの時間は終業時間を過ぎている。正門を見ると、花と同じ部署の梶田ちなみが歩いてきた。俺に気がついても特に驚く顔もせず、「お疲れ様です」と軽く頭を下げる。
「右京さんは体調不良で今週はお休みされると聞いていましたが、もう大丈夫なんですか」
あまり顔に表情が出ない彼女だが、少なからず心配しているのだと思った。
「お疲れ様。心配かけてわるいね。まだ十分な食事ができなくてリハビリ中だよ。今日は車を取りに来たんだ」
「そうですか、お大事にしてください」
と、梶田ちなみが決まり文句を口にした後、「それで」と付け足した。その目はじっと俺を捉えている。

「花さん、仕事終わりにスマホを見て慌てて右京さんの研究室の方へ行きましたので、タイミングよく言えることですが……昼休みに休憩スペースで原田さんと何か話していました。原田さんが「本当に知らないか」と花さんに何度も聞いているようでした」

──原田京華が、花に何を聞いたんだ?

サッと嫌な予感が横切った。
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