俺と、甘いキスを。

梶田ちなみが帰ってから程なくして、花が正門を抜けて歩いてくる。
「右京さんっ」
クリーム色の傘をさして、もう片方の手に何かを持っている。雨で寒いせいか、彼女の鼻が赤い。
「花、お疲れ様。人が来ないうちに早く帰ろう」
俺は花が抱えている「それ」を受け取る。「それ」は、俺がいつも出勤時に着ているコートだった。
「右京さん、その服だけじゃ寒いと思って……気がつかなくてごめんなさい」
助手席でしょんぼりとする花が、可愛くて仕方がない。

すぐに駐車場を出て、雨の中を走る。
「花、少し寄り道をして帰ろうか」
信号待ちの車の中で、俺は冷たくて柔らかい彼女の手に触れた。

車を駐車場に止める。
花は目を丸くして辺りを見て、俺を見た。
「ここって……」

知っていて当然だ。ここは花たち家族がよく利用するであろう、川畑家から近いスーパーなのだから。

しかし、すぐには降りずに、俺は運転席でしばらくフロントガラスに降り続く雨を眺めていた。花も俺の様子を伺いながら、助手席で大人しく座っている。
「花が駐車場に来る前に、梶田さんに会った。「川畑さんに本気なら、何もかも捨てる覚悟で守ってあげてほしい」と怒られた」
俺が肩を竦めると、花はポカンと口を開ける。 俺は情けなく笑う。
「いや、そのとおりだと思った。俺たちは普通の関係じゃない。だから昨日も暁さんに了承してもらおうとしたんだ」
「それはそうだけど……」
花は困った感じで、鞄の紐をくねくねと触る。

俺は詳しい話は帰ってからだと思い、花の頭を撫でた。
「花、唐揚げが食べたい」
「え?唐揚げ?」
花の慌てた裏返った声が面白くて笑う。
「あははっ。そんなに驚くことないだろ。そう、唐揚げ。胃の調子も悪くないから、少しくらいなら大丈夫だろ?」
「でも右京さんはまだ油っこいものは控えた方が」
「大丈夫。もしもの時は花が看病してくれるし。よし、鶏肉を買いに行こう」
「え、右京さん。待って」
俺たちは小雨になった外へ出た。

< 139 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop