俺と、甘いキスを。
「ランチバッグを落としてしまって……タッパーの蓋が開いてしまって中身が雨に当たってしまったんです。そんなお弁当を右京さんに渡せなくて、ああ言ったんです」
「そうだったのか」
俺は駐車場で見た、あの光景を思い出す。
駐車場の入り口の前を、傘をさして通り過ぎていく花のすぐ後ろから、赤い傘にブランドのボストンバッグを持った人物がいた。見覚えのあるマスタード色のトレンチコート。
俺が見えたのは、その二人の距離が歩く度に縮まっていくところだった。
「あの時、お前の後ろに原田京華がいたのは知っていたか」
この質問に、花の顔色が変わった。その顔で、花は首を横に振る。
「知らなかったわ。後ろから鞄がぶつかって、追い越され際で謝られた時に原田さんだと気づいたの」
やっぱり。
「花、それ、わざとだぞ」
「え?」
困惑顔の花に、俺は部屋に戻り座卓に肘をついて小さく息をついた。
「原田京華はお前のランチバッグを落とすために、わざとぶつかっていったんだよ。ちょっとカバンがぶつかったくらいで、簡単に袋を落とすわけないだろ」
「そんな……」
花はまだ半信半疑な様子で、原田京華とぶつかったときのことを思い出しているようだった。
「あの時は確かにぶつかった衝撃は強かったかもしれないけど、でもわざとだなんて。それに、原田さんは急いでいてもちゃんと謝ったのよ。故意にとは思えないわ」
「「故意」だから、彼女は謝ったんだ」
俺の言っていることが理解できないのか、花は難しい顔をして俺を見た。
「どういう意味?故意じゃなくても謝る人はいるわ」