俺と、甘いキスを。

「普通は人にぶつかれば謝ろだろう?でも原田京華はあの袋に弁当箱が入っていることを知っていたら?あの日は雨が強めに降っていたから、後ろから来る足音なんて聞こえないときだってある。突然ぶつかって弁当を落とすことが出来たらラッキー、と思う程度だったろうな。そして実際に袋は雨の中に落ちた。あの女は思ったはずだ」

──私の「勝ち」。

花は信じられないとばかりに、何度も首を左右に振る。
「そんな。じゃあ、原田さんの「ごめんなさい」って……」
「それは原田京華の「勝利の謝罪」だ。簡単に言えば、「勝たせてもらってごめんなさい」ってやつだ」
と、俺は一度言葉を切った。
花がショックを受けたようで、悲しい顔をしたからだ。
「……私は、原田さんに嫌われていたの?どうして……」
と、自身に問うように呟く。
ゆらゆらと、揺れているような足取りで部屋に入ってきた彼女の腕を軽く掴んで、俺の横に座らせる。
「ごめんな、花。多分、俺のせいだ」
背中に腕を回して引き寄せ、ふんわりと畝る髪にキスを落とす。花は寄り添うまま、じっとしていた。

「花の弁当はもしかしたら原田が、と思ったのは、あの日の昼近くだった。あの女が「弁当を作ってきたから一緒にどうか」と誘ってきた。俺が「遠慮する」と断ると、変なことを言われた」

『じゃあ、今日は社食に行くんですね』

俺の話に、花が少し驚いた顔で俺を見上げた。

「原田は俺が普段、上司の誘い以外は社食に行かないことを知っている。あの日は俺は社食に行くと断言した言い方だった。だから俺はその口車に乗って、お前を連れて社食に行ったんだ」
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