俺と、甘いキスを。

右京誠司は、私の両親に向かって頭を下げた。
「今日は大切なお嬢さんのお見合いの席だというのに、顔を出してしまい申し訳ありません。しかし、うちの身内がお世話になっておきながら声をかけないのも失礼かと思い、挨拶だけでも、と伺いました。今日は良い天気に恵まれましたね」
と、一瞬で女性たちが虜になってしまいそうな満面の笑みを浮かべた。
母はその笑顔に悩殺されたように、顔を赤らめてコクコクと頭を縦に振る。父も「こちらこそ、色々助けていただいて……」と安堵した笑みで返した。

席に座り直した貝塚部長は眉を下げて、「今日は二人のお見合いなんです」と、自分は仲介人であることを説明した。
右京誠司も軽く頷き、
「知っていますよ。大変お世話になったご家族の、大切な日ですから」
と貝塚部長の声を被せるように話す。しかしその優しげな声とは違い、柴本家側へ向けられたのは、冷ややかな鋭い視線だった。

「だからこそ大切な川畑家のために、僕が出向いて来たんです」
私の兄、川畑暁と目を合わせた右京誠司は、クスッと口角を上げた。
「川畑花さんのことは、弟から聞いて知っていました。真面目で優しくて世話焼きで、両親を大切にする人。それを僕自身感じたからこそ、花さんのためにひと肌脱ぐことにしたんです。貝塚部長は柴本くんを有能な男と見込んで彼女の見合い相手に推したようですが、僕も僕なりに柴本くんを調べたんです」

右京誠司は彼らに向けられた目を、今度は柔らかな微笑みを浮かべて私を見た。

「そう。徹底的に、ね」

貝塚部長は右京誠司の機嫌を伺うように笑いかけた。
「しかし専務、柴本くんはなんの問題もなかったはずです。仕事だって完璧なんですから」
と進言する。
右京誠司は「僕もそう思えたらよかったんですけどね」と、ジャケットの内ポケットから何かを取り出すと、テーブルの上に軽く放り投げた。

「これは柴本くんの、ここ数日の行動を写真に撮ったものです。どうです、綺麗に写ってるでしょ?」
と、目を細めた。
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