俺と、甘いキスを。

『あ、この前のお兄さん、こんにちはー』
ボイスレコーダーの女の子の声と同じ声が、スマホから聞こえてきた。右京誠司は「こんにちは」と、スマホの画面に微笑む。
「今、君の彼と一緒にいるんだ。わかるかな?」
と、スマホの画面を柴本貴臣へ向けた。スマホの中の人物に、彼は「あっ」と声を漏らして見入った。
『あ、タカくん。今日はお休みって言っていたのに、スーツなんて着てるの?もしかして、そのお兄さんとデート?キャハハ、笑えるー』
彼女、ユウナちゃんはこっちの状況がわかっていないので、思ったままを楽しく声に出している。

右京誠司が話を切り出した。
「ユウナちゃん、この前お兄さんに教えてくれたこと、もう一度教えてくれる?」
『え、あたしが二十歳になったら、タカくんが離婚してあたしと結婚してくれるって話?それは本当だよ。エッチしてクールダウンしているときに言ってくれたんだから。見て、そのときにタカくんからもらった指輪だよ』
ユウナちゃんは嬉しそうに左の薬指に嵌ったピンクのハートの形をした宝石のついた指輪を見せてくれた。

『見合いをして結婚するから今は堂々と付き合えないけど、四年後にはあたしをお嫁さんにするって』

「黙れっ、ユウナ!」
柴本貴臣が叫んだ。
その大きな怒声に、店内がしんっ、と静まる。すぐに店員が来て「何かありましたでしょうか」と声をかけられたが、右京誠司が「お騒がせして、すみません」頭を下げた。

しかし、スマホの中の彼女はご立腹のようだ。
『なにそれ!「お前の体は最高だ、一生離さない」なんて言っていたクセに、私を四年も待たせるのよ?少しくらい好き勝手言ってもいいじゃない!』
「わかった、わかったから、それ以上言わないでくれ」
と、ユウナちゃんを前にして柴本貴臣は項垂れて弱々しい声を吐いた。
完全な恋人の痴話喧嘩だ。
もう収集のつかない状況に、私は辟易しそうだ。

右京誠司はスマホの画面を自分に向けて、
「あとは柴本くんとちゃんと話をしてね。それから、君は少し常識を勉強した方がいいね」
と、苦笑しながら通話を切った。
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