俺と、甘いキスを。
「これは……詐欺か?それとも未成年保護法を適応するか?」
大きな体で柴本貴臣をまだ押さえている兄がポツリと言う。
もう、終わりにしよう。
私は首を横に振った。
「私は訴えないよ。あのスマホの彼女も訴える考えはないと思うよ。こんなところで自分の名前が公になるのも嫌だしね」
と、肩の力を抜いた。
兄が柴本貴臣の腕をパッと離した。彼は小さく呻いて、押さえつけられた腕を痛そうに摩った。
椅子に座ったまま、うわ言を呟いてぐったりしている柴本貴臣の母。
そんな彼女に付き添って困惑する貝塚部長。
この場をすっかり冷めた目で見る私の兄。
飛び入り参加とはいえ、私を心配して駆けつけてくれた右京誠司と峰岸真里奈。
自分の本性を暴かれ、今も苛立ちと悔しさで顔を歪ませている柴本貴臣。
事の成り行きを不安そうに見ている、私の両親。
──お父さん、お母さん。ごめんなさい。
女独身、三十三歳。
これは、私のお見合い。
私は心を決めて、立ち上がった。
「柴本さん。本日はお見合いという、この場を設けて頂き、ありがとうございました。私の勝手なイメージで、お見合いは和やかでしめやかに、と思っていましたが全くそうでなかった、というのが私の感想です」
「あ、いや、これは……」
柴本貴臣はいろいろ暴かれても、まだ言い訳しようと言葉を探しているようだ。
私は遠慮なく遮った。
「今まで恋愛に臆病になっていた私は、縁談を全て断ってきましたが、高齢になった両親がまだ元気なうちに結婚して安心させたいと思い、今回のお見合いをお受けしました。しかしそれが右京専務や峰岸さん、そして周りの方々に心配をかけてしまいました。本当にごめんなさい」
仕切りの壁の近くに立つ、右京誠司と峰岸真里奈に頭を下げる。
「でも、そうやって迷惑をかけたり心配する人が周りにいるなら、きっとお見合いなんて上手くいかないんです。隠し事があっても、それも後々わかってしまうものなんです。だから柴本さん、このお見合いは、これでよかったんだと思うことにしました」
「花さん……」
柴本貴臣は縋るような顔で、私を見る。
「このお見合い、残念ですがお断りさせていただきます」
──終わった。これで私はまた、しばらく独身だ。