俺と、甘いキスを。
柴本親子が部屋を出て、この場の空気がふっと軽くなった実感がする。
右京誠司は一度会社に戻ると言う貝塚部長に「頼みがある」と小声で話し始める。多分、柴本貴臣の異動先のことだろう。
貝塚部長は柴本貴臣に言われるままにお見合いをセッティングし、何も知らずにトラブルに巻き込まれた被害者だ。自分の部下だけに彼も辛いだろうと思った。
私も成り行きはどうあれ、お見合いの当事者として、貝塚部長の疲れているような後ろ姿に向かって心の中で「ごめんなさい」と謝った。
私が縁談を断り、相手が退室したことでお見合いは終了になる。仲介人の貝塚部長も、
「本日のお見合い、大変ご迷惑をかけ申し訳ありませんでした」
と、何も悪くない彼が低く頭を下げて去っていった。
テーブルには途中まで食べた料理、いつの間にかデザートやコーヒーまで並んでいたが、今更冷めたコーヒーさえも飲む気になれなかった。
右京誠司が私たちの前に立ち、申し訳なさそうに頭を下げた。
「お見合いも、せっかくの美味しい料理もダメになってしまい本当に申し訳ありませんでした。僕の責任です。どうでしょうか、料理を下げてもらってアフタヌーンティーを楽しんでみませんか」
と、彼の提案でテーブルが一掃される。
その後には、数種類の小さなお菓子、ケーキ、スコーン、サンドイッチが並ぶ。その上小さめの梅と鮭のおにぎりも用意された。
「あたたかい緑茶もありますよ」
と、彼は私の両親に湯気の立つ湯呑みを勧めた。両親は「先ずは落ち着こう」と言って、目の前のおにぎりやサンドイッチに手を伸ばした。