俺と、甘いキスを。


「失礼します。遅くなりました」

私は、聞こえたその声に、ハッと顔を上げた。

ネイビーのスーツにマスタード色のネクタイ、長めの髪を後ろへ流すようにセットした右京蒼士の凛とした姿を目にする。目が合った彼は一瞬だけ、その切れ長の瞳を細めた。
そのすぐ後ろの人物を見つけると、緩んだ気持ちが冷たく金属のように固まってしまった。
サーモンピンクのシフォンドレスを上品に着こなす、長いストレートヘアを艶やかに靡かせた原田京華が立っていた。彼女は警戒している感じでこの場にいる人々を見渡し、私を見つけて「川畑さん」とポツリと言って眉間にシワを作る。

原田京華は怪訝な顔をして右京蒼士を見上げた。
「ランチのお誘いとしては約束の時間が遅いし、変だと思いましたけど……どういうことです?」
詰め寄る彼女に、右京蒼士は耳を貸すこともなく両親へと歩いていく。
「おじさん、おばさん。昨日までいろいろお世話になりました。一晩経っただけなのに、もう川畑家が恋しいですよ」
と、優しい笑みを浮かべて話しかけた。
父も右京蒼士に日に焼けた顔を向ける。
「右京さんも来ていましたか。ワシのところは花のお見合いだったんだがいろいろあって、右京さんのお兄さんの口添えで、危うく花に危険な結婚をさせるところだった」
と、父は顔のシワを深くして気落ちしている。
右京さんは首横に振った。
「おじさんたちには申し訳ないと思っています。でも、どうしても僕の覚悟を知ってもらいたくて、ここに来ました。少しだけ僕たちの話を聞いていただけませんか」
そう話す顔に、余裕が全く見られなかった。
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