俺と、甘いキスを。
原田京華は不機嫌な顔をしたまま、テーブルの端に用意された椅子に座り、足を組む。そして注文したコーヒーを眉をひそめて口にした。
兄は彼女へ視線を定めて、私に聞いた。
「アイツが連れてきた、あれは誰だ?」
「私と同じ研究所に勤める研究員、原田京華さん。さっき話してた原田信久さんのお孫さんよ」
と、私は肩を竦めた。途端に、兄の視線が強くなるのを感じた。
峰岸真里奈の席が、改めて私と兄の間に用意される。移動してきた彼女は原田京華を横目に話しかけてきた。
「右京専務の話で、このお見合いのことが多方理解出来たけど、もしこれが事実なら原田さんのやり方はフェアじゃないわ」
彼女が考え方が真っ直ぐだということは、右京蒼士の関わるやり取りの中で知っている。
しかし、これほど不満を顕にした空気を放たれると、またせっかくの可愛いプチケーキの味がわからなくなりそうだ。
そんなときだ。
自分たちの席から少し離れたところで、大きな声が聞こえた。
「離して、おねえさんっ。ここで何があるっていうの?」
高めなトーンの声は店内に目立って聞こえる。私たちも個室の入口へ何事かと視線を向けた。
「アンタも有名人なら、もっと大人の対応をしなさいよ。ちゃんとマナーを身につけなさい」
今度はそれを注意する、女性の声。
「ああ、ここね。テーブル席、七番」
その声の持ち主が、ここに現れた。
肩まで伸びたストレートの茶髪、赤い唇が印象的なモデルのようなスレンダーな女性が立っている。手足がスラリと伸びた体型に、黒のタイトなワンピースが似合っていた。その手には、もう一人の人物に手を握っている。
その引連れてきた人に、真里奈が、そして私も目を丸くして驚いた。
その人は慌てて連れてこられたのか、ブロンドの巻き髪は少し乱れ、細身の白のニットに黒のプリーツのロングスカート、黒革のショートブーツという格好だ。
少し濃いめのアイメイクをしたその人を、私たちは覚えていた。