俺と、甘いキスを。
椿マリエ。
今日の彼女は先日のような大胆さはなく、私たちを見て怯えているようにも見えた。テレビに出るくらいの有名デザイナーが、今では街中のどこにでもいるワガママそうな女性にしか見えなかった。
「ここまで連れてくるのは大変だったろ?連絡くれたら迎えに言ったのに、姉さん」
と、右京蒼士は自分の妻でなく隣の女性に話しかけた。
しかも、「姉さん」と。
私も、真里奈もその女性へ目を向けた。彼女は私たちに気づいて口角を上げて微笑んだ。
「こんにちは。私は三条美月といいます。右京誠司の妹で、右京蒼士の姉です」
右京誠司、蒼士と三条美月が並ぶと何故かキラキラと眩しく感じたのは、私だけだろうか。美男美女の三兄弟というのは、猛獣と地味女の兄妹からすれば「月」のような存在だ、と「スッポン」の私は思った。
三条美月の美しさに見とれていると、真里奈がポツリと、
「三条って、研究所の三条所長の奥様じゃ……?」
と、視線をキョロキョロとさせていた。
椿マリエは右京蒼士に「どういうことよ」と不機嫌に顔を歪ませていたが、その目が原田京華を捉えると両肩を落として大人しく椅子に座った。
「川畑家のみなさまは大変お疲れでしょうが、自分勝手ではありますが「俺」という人間を全て知っていただき、その上で申し上げたいことがあります。申し訳ありませんが、どうか最後までご同席頂きたくお願い申し上げます」
右京蒼士はテーブルの席にいるみんなの前で、頭を下げた。
母が父に「どうする?」と、問うような視線を送る。父は「まあ、聞いてみようじゃないか」と、兄や私にも促した。
右京蒼士は「ありがとうございます」と言って、話を進めた。