俺と、甘いキスを。

平行線を辿る二人に、彼の兄である右京誠司も、姉である三条美月も口を挟むことなくじっと見ている。
右京蒼士は暴れ出すことは無いにしても、吊り上がったその目は怒りに満ちたように赤く充血していた。

ハラハラと落ち着きのない私に、隣の母は私の腕に手を置いて顔を見合せた。不安だらけのみっともない顔をしている私に、「しっかりしなさい」と言っているようだった。

右京蒼士は自分を落ち着かせようと、肩で深呼吸をする。
「何度も離れていこうとする花を引き戻したのは、俺だ。これが全てだ」
「私が祖父にお願いすれば、オオトリグループはすぐに倒産するわ」
原田京華は唇を噛み締めて、彼を睨む。
右京蒼士も彼女に鋭い視線を向けた。

「好きにすればいい。オオトリグループは信頼と努力で成り立つ会社だ。金と権力をチラつかせて、人間の価値を値踏みするような奴らに負けるとは思えないけどな」

よほど悔しいのか、原田京華は両目に涙を浮かばせて右京蒼士に目を向けたままだ。

「アンタがあの研究所に居残るかどうかは勝手だ。だが、今後、花を傷つけることがあれば俺は許さない」

右京蒼士の言葉で、原田京華の企みは失敗となったことがわかる。同時に彼女の失恋も決定的となった。
彼女は両手でハンドバッグの持ち手を握りしめて、足を一歩踏み出した。

「そういえば」
右京蒼士の声に、原田京華の体がぴくっと揺れる。
「マリエの両親がニューヨークで誰かとレストラン経営をしていたそうだが……その誰かって、アンタの関係者じゃないだろうな?」
「……」
彼女はしばらく黙っていたが、「知らないわ」と言ってまた一歩踏み出す。
隣に座っていた兄も、その後ろ姿を凝視している。
右京蒼士がフッと口角を上げる。
「まあ、いずれすぐわかるさ。黙っているアンタが後悔するだけだ」
そのセリフで、原田京華の目元が震えた。

「……私が知っているのは、祖父の息のかかった人、というくらいよ」
と、言い残して踵の高いハイヒールを鳴らして個室から去っていった。

どうしても右京蒼士を手に入れたかった原田京華。彼女のやり方は褒められたものじゃなかったが、そこまでして好きな人を自分のものにしたい気持ちは、私にも少しだけわかる気がした。
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