俺と、甘いキスを。
酸欠になりそうな、息苦しいような、空気が薄いと錯覚している空間が再びフワッと呼吸が軽くなるような気がした。
私は少し離れたところで右京誠司と話す右京蒼士を見つめた。彼は気を緩める様子がない。まだ彼のやるべきことが終わっていないのだと思った。
「川畑さんの得体の知れないお見合いを徹底的に調べあげ、川畑さんのために傷つけるものを全て取り除いて守っている」
峰岸真里奈は大きな窓ガラスの向こうに見える街並みを眺めて、緊張が溶けていく息を吐いた。
「あなたの何が、彼をそうさせたのかしらね」
どこから見ても平凡な女なのに、と相変わらずの辛口で私を横目でじっとり睨む。
──それは、私の方が聞きたいよ。
私が自ら彼に未練がましいことをしたのは、一ヶ月前の右京研究室の前で大泣きしたことくらいだから。
いくつも絡まった糸を解くように、右京蒼士は自身の謎を明らかにしていく。
「では、ここから本題に入りたいと思います」
と、内ポケットから封筒を取り出す。
「これは離婚届です。俺の記入するところは全て書いて捺印してあります。ここでマリエに記入をさせて役所へ届けることは容易なことだが、その前に確認しておきたいことがある」
この説明に、椿マリエはさっきの怯えて泣いていたときとは違い、逆ギレして声を荒らげた。
「なによっ。アタシのこと散々暴露しておいて、まだ何がするつもりなの?もう、いいじゃない。蒼士から五千万もらえないなら次のイベントだってできない。その上、京華さんから借りた三億も返せない。倒産して自己破産するしかないのよっ!」
あまりの彼女の変貌ぶりに、私たちは唖然として見つめる。