俺と、甘いキスを。

「騒がしいと思えば、峰岸さんでしたか。どうかしましたか?」
と、奥のドアから右京蒼士が顔を覗かせている。
途端に真里奈は顔を赤らめて笑顔になる。
「いえっ、川畑さんがここから出てきたところを偶然会ったんです。用事があるんでしたら、私が伺いましたのに。川畑さんは業務がお忙しいですし…」
そう言いながら、研究室に踏み入る。

「フシンシャ!フシンシャ!」

直後にガードが騒いだ。
右京蒼士が「ガード、大丈夫」と円柱の塊に声をかけると、ガードは静かになった。
「峰岸さん。用事は川畑さんに頼んだから大丈夫ですよ、ありがとう。川畑さん、また後で連絡しますのでお願いします」
と、彼は穏やかな顔を浮かべた。ニッコリと微笑んでいても、 「早く帰ってくれ」と、内なる不機嫌が何故かわかってしまう。
私たちは「失礼します」と、早々に研究室を後にした。

事務所に戻るところで、真里奈に「川畑さん」と呼ばれる。その表情は歪んでいる。

「川畑さん、いつの間に右京さんに取り入ったんですか。研究室まで入ったなんて、卑怯じゃないですか!」

とんだ濡れ衣だ。
私は慌てて手を横に振った。
「違います。私は呼ばれて研究室に行っただけで」
と、卑怯呼ばわりされる筋合いはないと否定する。
それでも真里奈は眉を吊り上げている。
「私、周囲にも公表していますが、右京さんの愛人になってもいいくらい、あの人が好きなんです。だからずっと彼のサポートをしています。邪魔しないでくださいますか」

その言葉が私の中にジクリと刺さり、痛みが生まれた。
こんなこと、初めてだった。
愛人でも恋を勝ち取ろうとする女に、恋を諦めた女は非力で惨めだと思い知らされた。
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