俺と、甘いキスを。
「研究室の備品で購入したいものがあるんですが、川畑さんにいろいろ相談も兼ねて、しばらく僕のサポートについて欲しいと思っています。よろしいでしょうか?」
え?
事務所内が一瞬しんっ、と静まる。
右京蒼士は私の後ろに立ち、堂々とした態度で事務長に顔を向けている。事務長が四角いフレームのネガネの奥で、目を丸くさせる。
「えっと、右京くん…それは川畑さんを右京くんのサポートにつけるのは、助手ということかな?」
「いえ。研究の助手ということでなく、僕の事務的なサポートを彼女をメインにお願いしたいと思います。川畑さんの仕事の迷惑にならないようにしますので」
穏やかに微笑んで説明する右京蒼士の前で、私は事務長に向けてプルプルと必死に首を横に振った。
──事務長、それだけは断って!
きっと私は彼に肩を掴まれたまま、すごく情けない顔をしているかもしれない。しかし恋を断念したばかりの男のサポートをするなんて、拷問以外の何ものでもない。
その上、これが承認されて峰岸真里奈が知ったら、間違いなく彼女に息の根を止められるかもしれない。
「うーん、そうだねぇ」と、少し考えている事務長に、私は力一杯アイコンタクトを送った。
しかし。
「わかった。いいよ」
目で訴えた切なる願いは、事務長の二つ返事で見事に打ち砕かれた。
逃げ回った挙句に捕獲されてしまった私は、キッと右京蒼士を睨み上げる。彼は勝ち誇ったように余裕の笑みを浮かべて、私を見下ろした。
鞄とコートを取り上げられ、右京蒼士に首根っこを掴まれながら研究室へ連れ込まれた。研究室の番人ガードがいるのに、彼は何の反応もしなかった。