俺と、甘いキスを。

私は迫ってくる彼の笑顔に、「はあ、どうも、はじめまして」などと曖昧な返事をする。

柴本貴臣はそっと私の右手を取った。触れるだけのような感覚で持ち上げられた手を、彼は丁寧に両手で包み込んだ。
「釣書には「真面目な性格」とあったけど、全然可愛いらしくて静かな雰囲気の女性だね。制服もよく似合ってるよ」
「あ、あの」
彼は女性の扱いに慣れているのか、いきなりのスキンシップに動揺を覚えながら見上げる。
柴本貴臣の瞳がグッと開いてギラリと光った。まるで獲物を狙っているようなその目に、背筋がガチッと凍りつく気がした。

私の苦手なタイプの人だ、と直感が湧いた。


「誰かと思えば、柴本課長でしたか。お久しぶりです」

背後から声がして、同時に彼の両手が離れていった。
私はその聞き慣れた声にほっと安堵してしまう。
柴本貴臣は私の後ろの人物に、軽く手を上げた。
「やあ、蒼士くん。元気そうだね。仕事忙しい?」
と言いながら、右京蒼士に近づいていく。
「まあ、いろいろと忙しくしています。最近は彼女、川畑さんに事務のサポートをしてもらっているので助かっています」
と、切れ長の瞳を向けて微笑む。
柴本貴臣は「そうなんだね」と頷いて返事をする。顔は笑っているのに、目だけが全く笑っていない。そして、

「彼女、川畑花さんは僕のお見合い相手なんだよ」

と、暴露した。

受付カウンターで様子を見ていた峰岸真里奈は会話が聞こえたのか、アイメイクを施した大きな瞳はこぼれ落ちそうなくらい見開いて、私たちを見ていた。驚くのも無理はない。
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