俺と、甘いキスを。
「本社人事部の課長。人間性を見抜く洞察力に長け、彼の見込んだ人材は必ず成果を上げていると小耳に挟んだことがある。実際、柏原研究室の原田さんも柴本課長のお眼鏡に叶った社員らしい」
噂好きな誰かさんが彼に聞かせたことなんだろう。
右京蒼士は私に視線を合わせて仮面用の笑顔を浮かべた。
「あの人とお見合いするんですね。柴本課長は川畑さんの真面目な人間性を見抜いたのでしょうか」
と、演技用の口調を並べても、切れ長の目は笑ってないかった。
彼から発する冷ややかな空気に当てられたのか、私の背中もひんやりと冷たくなる気がした。
「さ、さあ。どうでしょうか」
仕方ない。引き返せないところまで来ているのだ。
怖くて足が震えるくらい右京蒼士が怖くても、どうにもならない。
小声で答えて俯いていると、「信じられない」と受付カウンターから声がした。
峰岸真里奈の大きな瞳は眉をひそめて、軽蔑するように私を睨む。
「柴本課長とお見合いするのに、右京さんにも手を出そうとしていたんですか。川畑さんは男性のことになると随分欲張りになるって噂を聞きましたけたど、さすがに二股や男遊びはやりすぎじゃないんですか?」
私はその発言にびっくりして、慌てて首を横に振った。
「私は二股や男遊びなんて…」
と言い返していると、目の前にスッと右京蒼士が出てきて真里奈の姿を遮った。
「右京さんっ」
彼女に言いたいことがあった私は、彼の白衣の背中に叫んだ。
しかし彼は私を背に隠したまま、「峰岸さん」と受付嬢を呼ぶ。真里奈がどんな顔をしているのか私からは見えない。