俺と、甘いキスを。
三月に入ってすぐのことだった。
少しずつ気候があたたかくなり、日向ぼっこがしたくなる昼間を感じるようになった。
中庭の桜の蕾が膨らんできたのを見ると、春が待ち遠しく思うようになる。
柏原研究室から頼まれたファイルを届けた、ほんの二分ほどの散歩だ。
──あの桜が咲く頃、私も柴本さんとの結婚が決まるのだろうか。
将来有望視されている彼とのお見合いまで二週間を切っている。彼も忙しい身らしく、あれから何の音沙汰もないが、父に柴本さんが研究所に来てくれたことを話したとき、「気遣いができる青年だ」などと言って嬉しそうだった。
私はこの会社に入社してすぐの頃、当時に付き合っていた男性のことで両親に沢山心配をかけてしまった。それ以来男性と接点を持たない生活をしてきた。
しかし右京蒼士に出会ったことで、忘れかけていた恋心を再燃させてしまった。
右京蒼士は、一生忘れない男性になる。
どんなに好きでも、私たちが一緒になることはない。私は柴本さんと結婚することが最良だ。そうすれば、両親も喜んでくれる。
もう、何度繰り返したかわからないくらい、同じことを自身に言い聞かせる。
私が今やるべきことは、両親を安心させること。