俺と、甘いキスを。
右京蒼士とは鳳会長が視察のあったあの日、受付で峰岸真里奈と対峙した時から会っていない。メールのやり取りも、
『忙しすぎてムカつく』
『花の弁当が食いたい』
など、ストレスが溜まっていそうな言葉ばかり。お弁当を持って行こうか、と返せば、
『集中力が切れて花を襲いそうだから来るな』
と断られる始末。
奇跡的に会えるかも、と二階の休憩スペースに行ってみたものの、見事に空振りに終わる。
彼はこの数日、引きこもりの修行僧な生活をしているようだ。自宅に帰っているのかも定かではない。
──やっぱり、今日は右京さんの顔を見てから帰ろう。
月曜日のこの日、私は終業時刻になって右京研究室を訪ねた。
いつもどおりに社員証をガードに見せる。
「……」
ガードが反応しない。
「あれ?」
故障したのかな?と、黒い目を光らせようとしないガードを見つめた。
ドアノブに触れても鍵が掛かっていて、開かなかった。
不在なら仕方ない、と自分のタイミングの悪さに凹みながら来た道を引き返す。
トボトボと歩いて、ふと桜の木を見上げた。その向こうにはベンチがあり、後ろから照らす街灯からベンチに座る人影に気づいた。
少し影になりながらも、二人の顔が見える位置に立っていた私。
「…っ」
長い髪がサラッと揺れ、両手を伸ばして相手に抱きつく。嬉しそうに笑っているその顔に、一瞬で私の胸がキリキリと痛み出した。
原田京華だ。
その視線は私を捉えて、女の顔で不敵に微笑んでいるように見えたのだから。
彼女と抱き合う、白衣を着た背格好は私の見慣れた後ろ姿だった。
体中の血液がドクドクと急速に駆け巡る感じがした。足が一歩、また一歩と後ろへ下がっていく。
視線を逸らしたいのに、逸らせない。
──な、なによ。しばらく会っていないと、こうなるわけ?メールで散々気を持たせるような言い方をしていたくせにっ。
今まで、あんなに甘い言葉を吐いておいて。
結局、私は要らなくなる存在なんだ。
また、私は、捨てられるんだ。