俺と、甘いキスを。
正門まで走ってきた私は息切れする呼吸を整えて、何事もなかったように警備員に「お疲れ様です」と挨拶をして研究所を出た。
『俺がお前を手放すことは、絶対にない』
愛されていると思っていた。
違うのだ。
ただ右京蒼士の都合のいい女として、側に置いておきたかっただけの意味だったんだ。
キスは自分のお気に入りのおもちゃのように愛でて、捻挫の看病や食事はお気に入りのおもちゃとして修理して餌付けする。そして都合のいい時に呼び出して構い、他のお気に入りが現れると不要になる。
椿マリエのような華やかさがなければ、原田京華のように美人でもない。峰岸真里奈のように可愛さも健気さもない。
ただの地味な田舎者だ。
右京蒼士の周りに彼女たちがいるなら、私の存在価値はかなり低い。
──私なんて、あの時、峰岸真里奈に階段から突き落とされて、そのまま下まで落ちてしまえばよかったんだ。
そうなれば、怪我を負って更に醜くなった私を、きっと彼は見向きもしなくなったかもしれないのに。
違う。今の私が、醜いのだ。身の程知らずの嫉妬に、自分が嫌になる。
「はぁ…私、ホントに馬鹿だ…」
鞄からスマホを取り出してメールをする。そして、電源を落とした。
『お疲れ様です。私は不要のようなのでお暇させていただきます。原田さんと仲良くしてください。今までありがとうございました。川畑』