俺と、甘いキスを。
お昼休みが終わる頃、ちなみが事務所に戻ってきた。
「花さん、右京さんが「ミライ」のシステム改善チームに選ばれたようですよ。今後のAIドールの製作工程にも応用できるようにと、かなり時間のかかるプロジェクトになるようです」
彼女は逐一、右京蒼士の情報を提供してくれる。その度に心の中で喜怒哀楽に反応する私も、まだまだ彼に依存しているのだと、ガックリと頭を垂れた。
終業時刻まで、あと五分。
目の前には持田研究室から送られてきた精算書に目を通して経理係へ届ければ、本日の業務は終了である。
今日の夕食は白菜と豚バラ肉のミルフィーユ鍋だ。お肉は少し多めに買っておくように母に頼んであるので、余ったお肉で明日のお昼の生姜焼きを作る予定だ。出汁の染みたミルフィーユ鍋は、私の好物の一つだ。
早く業務終了のチャイムが鳴らないかと、机の上の片付けを始めた。
「川畑さん、お疲れ様」
私のデスクまで来て声をかけたのは柏原研究室の室長、柏原さんだ。声をかけてくるなんて珍しい、と思いながら「お疲れ様です」と微笑む。
彼は目をキョロキョロさせて「えーと…」と苦笑いをする。言い出すのを待っていると、
「ちょっと頼みたいことがあって、一緒に来てくれるかな?」
と、眉を八の字にして私を見た。
肩幅の広い後ろ姿がなんだか落ち着きがない感じがしたのも気になったが、困っていると思ったので行くことにしたのだ。
本館から外へ出たとき、終業を知らせるチャイムが鳴り響いた。