俺と、甘いキスを。
柏原さんは薄く無精髭を生やした顔を向けて、
「仕事終わりに呼び出してごめんね」
と、申し訳なさそうに口を開く。
私は見上げて、その顔に話しかける。
「それは大丈夫なんですが、何かあったんですか」
その返事がないまま、長身の白衣の裾を靡かせた彼は柏原研究室へ入っていく。
柏原研究室は右京研究室と違い、用途によって研究できる部屋がいくつもある三階建ての大きな白い建物だ。踏み入ったことはないが、地下室もある。
柏原さんは二階へ続く階段の前で立ち止まり、振り向いた。
「川畑さん、ごめんね。俺の立場としては本当は良くないと思っているんだけど、どうしても見ていられなくてね。頼みを聞いてくれたら、俺も川畑さんの頼みをできる範囲で聞くから」
「はい…私でよければ」
無精髭がなければ綺麗な顔をしているであろう彼の曖昧な言葉に、私もつられて曖昧な返事をしてしまう。
「部屋は二階なんだ。ついてきてね」
と、階段を上る彼の後を追った。