俺と、甘いキスを。
その広い背中は二階の廊下を一番奥まで進んだ右のドアで止まる。白いドアの横の壁は一面ガラス張りになっているが、内側の茶色のスライドカーテンで締め切られて中の様子は全くわからない。
「川畑さんの言うことなら、アイツもきっと聞いてくれると思う。もう誰が何を言っても反応しないんだ。最低三日は寝ていなくて食事もロクにしていない。完全な引きこもり状態だ」
半分諦めている、といった感じで彼は力ない声で困惑していた。
「アイツって…?三日も寝ていないって、どういう…?」
と、誰が?と疑問を呟いているうちに、柏原さんは小さな音を立ててドアを開け、私の背中をそっと押して部屋の中へ押し込んだ。
「あっ…」
パタリと閉められたドアを見つめて、ガックリと肩を落とす。そして、誰がいるのかわからない薄暗い部屋を見回した。
床に置かれた大きな機械がブォンと重い音を立て、スチール棚が並んだ奥から「カチャカチャ」と音が聞こえる。他にも人の歩く音やギリギリという金属音も聞こえた。
部屋の中はとにかく暗く、窓が締められカーテンで外も見えず息苦しさも感じる。灯りといえば机のスタンドライトとか、モニターの画面くらいだろう。とても寂しい空間だ。
人の気配のある方へ歩く。スチール棚に囲まれた、パソコンが何台も置かれたデスクのところに、白衣の後ろ姿があった。大きな箱型の装置から、何かが印刷されて流れてくるロールペーパーを見ているようだ。
間違いない。右京蒼士だ。