俺と、甘いキスを。
データを見つめながら、その姿が横を向く。横顔の切れ長の目は真剣さを、人を寄せつけない空気を漂わせていた。そしてパソコンの画面を覗き込み、キーボードで何かを入力し始める。また別のパソコンの前に立ち、同じことをしている。
凄い集中力だ。
「仕事中の研究者にむやみに話しかけてはいけない」
このルールは私がこの会社に入社したときに、先輩社員から教えられたことだ。研究者はその時の発想、閃き、構築が先に繋がることがあるから、彼らの前で突然話しかけたり大声で騒いだりしてはいけないらしい。
──もう三日は寝ていない、と柏原さんは言っていた。でもタイミングよく話しかけられたとしても、彼から身を引いた私に真面目に話を聞いてくれるだろうか。
そんなことを思いながら、ただひたすら仕事を続ける右京蒼士を見つめることしかできなかった。
「…な。……はな」
名前を呼ばれて、体が揺れていることに気づく。
「…ん」
眠い目を擦って見上げると、まだ視界がぼんやりしているが目の前に誰かいることはわかる。
「起きろ、花」
この声は、私の好きな人の声。
「…うきょうさぁん…」
嬉しくて、緩みっぱなしの顔でふにゃりと笑った。
途端に、自分の後頭部がグッと支えられ、唇を塞がれた。
「んっ」
柔らかくてあたたかい唇が気持ちよくて、「もっと」と自分の口を押し当てた。
彼の舌が、私の微かに開いた口を開けて入ってくる。
「んうっ…はっ…」
口内を暴れ回る舌にすっかり翻弄された私は、頭がクラクラした。
「チュッ」と小さなリップ音がして、彼の唇が離れていく。
どうやら私は背中に当たるスチール棚に凭れたまま、眠ってしまったらしい。