シンフォニー ~樹

体が結ばれてからの恭子は 一段と可愛くなって 樹を悩ませていた。

待ち合せて、樹を見つけると、
 

「樹さーん」と駆け寄ってくる恭子。

笑顔で手を開くと 恭子は胸に飛び込んでくる。

駅前でも、人がいても。

そんな恭子が可愛くて 樹は年甲斐もなく 恭子を抱きしめてしまう。

『本当に俺は、恭子にデレデレだ』と思いながら。
 

デパートを歩いていると 服やバッグが目に入って 恭子に買ってしまう。

「樹さん、無駄使いし過ぎ。結婚したら 私がお財布を握るよ。」

買った物を 嬉しそうに受取りながら 恭子は言う。

樹は声を出して笑う。

恭子の言葉が嬉しくて、可愛くて。
 


恭子も 樹の愛情に答えるように 美しさを増していく。

絵里加とは違うけれど 素直な明るさに 女性らしさが加わり 樹をドキドキさせる。
 

「今日の恭子、また可愛い。金曜でよかった。」

樹は、恭子の耳元で言う。
 
「ずっと一緒だもんね。」

恭子も嬉しそうに答える。



この愛情はなんだろう。

絵里加に感じた 切なさとは違う 溢れる愛しさ。


恭子は最初から 真っ直ぐ樹を 見てくれたから。

樹を求めてくれたから。
 


智くんが 言っていたように 男って弱い。

好きな人に 期待されて 頼られると こんなに幸せで 力が湧いてくるなんて。


恭子の為に 何かをする事が 楽しみで 仕事さえも頑張ってしまう。
 


「恭子、夕食は 何食べたい?」

恭子の肩を抱きながら、樹が聞く。
 
「焼肉かな。」

と言って恭子は はっとした顔で “あっ” と言う。
 
「どうしたの?」

樹が心配そうな目で見ると、
 
「だって。白いワンピースで来ちゃったから。」

と泣きそうな顔をする。
 

「いいよ。汚したら、また買ってあげるから。焼肉行こうね。」

樹は また笑ってしまう。恭子が可愛くて。

ポンポンと 頭を撫でながら 歩きだす二人。


多分 食事中も 甲斐甲斐しく 世話を焼いてしまうだろう。

恭子の服が 汚れないように。


そんな自分を思って苦笑する樹に、
 
「ねえ。なんで笑っているの。」

と恭子は問いかける。
 
「お肉 たくさん食べて 体力付けないとね。」

と樹は言う。


今日は金曜日だから。朝まで一緒にいられるから。
 
「もう。樹さんのエッチ。」

恭子は頬を赤くして言う。
 

「えー。恭子、想像し過ぎ。恭子の方がエッチ。」

樹も明るく答える。


明るくて、可愛くて幸せな時間だから。



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