デアウベクシテ
第11話~足りない
 私達は体を横に向け、賢人の胸が私の背中にぴったりくっついている。腕と腕を絡める。

「彩華?」
「なに?」
「彩華はどうして俺と付き合おうと思ったの?」
「んー…。わかんない。」
「何か理由があるだろ?あの時は本当に『どうでもいい』って思ったかもしれない。でも彩華はそんな人じゃない。彩華は『彩華』に気付いてなかっただけだ。」
「そんなこと言われても…。」

 私は思い出しはしない、はっきり覚えていた。その時のことを。

「賢人に…『悲しそう』って言われて、『私そうなのかも』って思った…。自分でもわからなかったこと、賢人はすぐに見抜いた…。そんな人、男も女も賢人だけ…。」

 私ってば何てこと言ってるの。恥ずかしくなった私は誤魔化した。

「んもーわかんない!どうでもよかったの!」
「また素直じゃない彩華だ。」

 賢人は笑う。私の体をギュッとする。私の心もギュッとなる。

「もー…。」

 私はふてくされる。

「俺はすぐ好きになった。彩華のこと。」

 賢人は囁いた。私の体を撫でる。私の体がしなる。

「もっと呼んで、名前。」
「いつも呼んでる。彩華。」
「足りない。」
「俺も足りない。」
「名前?」
「違う。彩華が足りない。このままいい?」

 賢人は私の背中にキスをしながら。

「いちいち…聞かないで…」
< 11 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop