デアウベクシテ
第16話~そうなりたい
 私達はお揃いのナイトウェア。ベッドの中。ふたりとも天井を見ながら、賢人は私の手を握っていた。

「彩華?」
「なに?」
「彩華もどこがいいか考えておいて。」
「何を?」
「指輪。どこの店がいいか。」
「あ…。」
「今日行った店は、そこの指輪が彩華に似合うと思ったんだ。でも次はふたりで考えよう。」
「うん…。」
「それから、タイミング。指輪も結婚も、タイミングは彩華に任せる。」
「タイミング…って、今じゃないの…?」
「一生に一度のことだ。彩華の心とか気持ちとか、落ち着いてからがいいと思った。」

 一生に一度。迷いなんてなかった。私は賢人の肩をギュっとして、賢人を見る。

「今がいい。タイミングなんて、要らない。」

 賢人は笑う。

「そう言うと思った、彩華。」
「じゃあどうして聞いたの?」
「彩華のことが大切だからだよ。いくら彩華がせっかちだからって、一生に一度のこと。聞いておきたかった。」

 ほらね、いつもの賢人。優しいの。それに私のこと、わかってる。

「ねえ賢人。」
「ん?」
「今夜はこのまま静かに眠りたい。」
「どうかした?」
「きっと私もう、何もしなくても賢人のこと実感する。」

 私は賢人を実感しながら言う。

「例え離れたりしても、実感するから安心できる。」

 私らしくない、素直。 驚いたかな、賢人。

「俺は今日、痛感した。」
「何を?」
「彩華は優しい。」
「そんなこと…。」
「そんなことない、賢人のほうが優しい。そう言いたいんだろ?」
「…どうしてわかるの…。」
「ずっと彩華を見てきたから。」
「私だって…。」
「私だって…何?」

 『私だって賢人を見てきた』と言えず恥ずかしい私は口をキュっとした。

「彩華が安心なら俺も安心。彩華が嬉しいなら俺も嬉しい。彩華が悲しいなら俺も悲しい。分け合ったり、一緒に話し合って考えたり、支え合う。そうなりたい。」
「そうなる?」
「そういう夫婦になりたい。彩華と。」

 私は言葉でもなく笑顔でもなく、涙が出そうな顔をしていたみたい。

「そんな目じゃ、静かに眠れないよ彩華。」

 賢人の優しい目が私を包んだ。

「賢人は私に…『安心』も『愛』もくれた…。私も賢人のこと…賢人…の…こと…。」

 安心感というものを得た私は、いつの間にか眠っていた。あと少しで、言えたのに。

 朝になってた。私は目覚める。なんて気持ちの良い目覚め。私はどれだけ安心したのだろう。

「おはよう、彩華。」
「おはよ…賢人…。」

 隣には賢人。何も変わってない。

「彩華。軽く支度して、フレンチトースト食べに行かないか?」

 手を繋いで賢人と歩く。賢人の手が暖かい。心地良い。賢人の横が、心地良い。

「お待たせ致しました。今日はお二人お久しぶりだから、クリーム多めよ。ごゆっくり。」

 笑顔で去っていく店員。よくわからないけど、ありがたいと思った。

「食べよう、彩華。」
「うん。」

 香ばしいアイスコーヒーに、優しいフレンチトースト。なんとなく嬉しいと思った。ホッとする私は少し笑った。

「美味し…。」
「今日も美味しいね、彩華。」

 賢人は嬉しそうだった。私も嬉しくなる。賢人が嬉しいと、私も嬉しい。昨日賢人が言ってたことって、こういうこと?

「賢人?」
「なに?彩華。」
「結婚しても、ここに来たい。」
「来よう、何度でも。」

 私は笑う。賢人も笑った。
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