デアウベクシテ
第18話~本物
 夜になってた。

 賢人のキス。ひどく長い間してなかったように感じた。優しいのと激しいのを、交互に賢人はするの。キスだけで気持ち良い。心は安心してるのに、体は敏感になってる。なぜ?賢人はどう?

「彩華、どうかした?」
「緊張…してるの…。」

 賢人は笑う。

「久しぶりだから?」
「久しぶりって…。昨日してないだけでしょ…?」

 賢人の舌と指が徐々に下がっていく。

「大丈夫、優しくする。」
「そんな、ヴァージン扱いしないで…」
「力抜いて、彩華。」
「だから…」
「彩華…」

 落ちていく。ベッドに、賢人に落ちていく。

「彩華、緊張なんかしなくていいんだよ…体の動きが固くて辛そうだ…」
「大丈夫…」
「でももう…俺の手はびしょ濡れだし、シーツも濡れてる…」
「嫌…そういうこと…言わないで…」
「もう彩華に…聞かないよ…」

 賢人が私に入ってきた。気持ち良くて嬉しくて、私は泣けてきた。繋がることが、こんなにも嬉しいことだったなんて。私は本物のセックスを知った。

「彩華、大丈夫?」
「大丈夫…。」

 賢人は落ち着いてるのに、私はまだ息が苦しい。上手く話せない。私の涙を、賢人は指で拭う。

「彩華、どうしたの?」

 賢人が心配してる。なのに自分でもよくわからない。何て言ったら、賢人に伝わる?

「…安心…したの…昨日までなかった…。それまでより気持ち良くて、賢人がすごく近くに感じて嬉しくて…。こんなに嬉しく思ったのなんて初めてで…。」
「俺もだよ、彩華。」
「え…?」

 賢人は私の頭を撫でる。

「俺も同じこと思ってた。それに彩華の涙、辛い涙には見えなかった。悲しい、苦しい、寂しい、そんな涙じゃない。綺麗な涙だった。だから俺と同じなんじゃないかって思った。」
「…ほんとに…?同じことを…?」
「ほんとだよ、彩華。」

 私は目を閉じ、賢人の胸の上に手を置いた。賢人の鼓動が聞こえる。鼓動?今までそんなの聞こえた人なんていない。私はまた賢人を感じた。

「賢人?」
「なに?彩華。」
「抱き締めて、今。」

 賢人は抱き締めてくれた。

「もっとギュってして。」

 賢人は強く私を抱き締める。私も賢人に抱き付く。私の手は賢人の背中、頬は賢人の胸。ぴったりくっついている。落ち着くとは違う、何か別の感情。これが『愛しい』ってもの?

「賢人?」
「ん?」
「落ち着く。」
「俺も落ち着くよ、彩華。」
「賢人?」
「なに?彩華。」
「こんな所で、こんな形で言いたくなかった…。でも今なら言えそうなの。」
「どうしたの?彩華。」
「はしたない女だって、思われてもいい…。」
「そんなこと思わないよ。それがわかってるから言えそうなんだろ?」

 ほら、賢人はわかってるの、私を。私は背中にあった手を、賢人の胸に当てる。賢人を見る。目をそらさずに言うの。言える、私。

「賢人?」
「なに?彩華。」

 賢人はいつもの優しい目。私は賢人で溢れて濡れる、泣きそうな目。

「賢人…、愛してるの…。」

 賢人は微笑む。

「俺も愛してるよ、彩華。」

 私達は抱き合った。私は賢人で溢れた涙を、賢人の肌に濡らす。

「ありがとう、彩華。」

 やっと言えた。きっとずっと想ってたの。でも言えなかったの。不安で自信がなくて。口にするのが怖かったの。それだけ。もっと早く言えてたら、もしかしたら自信を持てたかもしれない。

 見つめ合って、キスをする。賢人の目、唇、舌、手、指、そして賢人。触れられたところ全てが熱い。賢人の息と体からも熱を感じる。焼けるほどに熱く。触れて擦って激しくなって。全身熱くてたまらない。気持ち良すぎてどうにかなりそう。それでも止まらない。止められないの。きっとそれは賢人も同じ。

「彩華…」

 私達は、目には見えない『本物』を見付けた。
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