デアウベクシテ
第2話~真っ黒
結衣のことがあってから、しばらくは毎週金曜の集まりはなかった。このままなくなってしまうのではないかと思っていたら、収集があった。ホッとした私。結衣がいたらな。
「久しぶりー!」
いつもの店。いつもの顔ぶれ。さらにホッとし、気が緩まる。今日は男3人、女3人か。
(あ、見たことない人がひとりいる。まぁいっか。)
すると、友人の1人がその見たことない人を紹介してきた。
「こいつ、オレの同期!よろしく!」
「よろしくー!」
みんな乾杯し盛り上がってる中、その人は話すどころかとにかく目立たず、透けて見えそうなくらいだった。
またいつもの仲間と会えた。よかった。嬉しい。和む。きっとここに結衣もいるだろう、いて欲しい。なんて、私らしくないことを思っていた。
帰る時間。私はこの後、部長と会う。はずだった。
先に店を出ていく男性陣。今日新しく来た人の後ろ姿。私は目を疑った。その人は真っ黒だった。影でもない、黒い服装なんじゃない。指先まで黒い、シルエットが真っ黒だった。
(…なに…?)
気になった私はその人を追った。気付かれないよう、注意を払って。私と同じ路線、同じ方面。ホームには思った以上に人がいて助かった。
人に紛れて私はその人に近付く。その人の少し離れた後ろに私は立った。その人はホームの端の端、ぼーっと正面を見ているのか見ていないのか、立っていた。
電車が来るアナウンスが流れた。ドキッとする私。電車の近付く音がしてきた。私の緊張は高まる。電車が見えてきた。私はその人を見る。電車の音が大きくなる。その人に近付く私の足音が目立たなくなる。その人は変わらず正面を見ていた。
電車が来た。その人の体はふわっと前に浮かんだ。
私はその人の腕をホーム側に力強く引っ張った。その人は体に力が入っていなかったのだろう、勢いよくふたりともホームに倒れ込んだ。息の上がる私に対して、その人は息をしていないように見えた。私と確かに目が合っているはずなのに、その人は私の目のそのずっと遠くを見ている目。
(この後、どうしよう…。)
ホームに駅員が来た。
「もう電車終わりましたよ。出てください。」
(え?終電だったの?)
その人はゆっくり立ち上がり、改札に向かおうとした。私はすぐに言った。
「どこ行くの?」
その人は何も言うことも、振り向くこともなく足を進める。私はついていった。心配しか頭になかった。その人は改札を出る。私も出た。
「家どこ?」
とりあえず家まで送る。そう思った。その人は言った。
「この駅じゃない。」
「え?」
「あと2駅下ったとこ。」
慌てて見たタクシー乗り場。人が並んでる。
「タクシー…。あ、じゃあどこかビジネスホテル…。」
金曜の夜。探したが、近場のビジネスホテルはどこも空いていなかった。
(どうしよう。どうすれば…。)
私が必死に考えているのに、その人はぼーっとしていた。少しムカッとした私は気付く。その人がラブホテルの看板を見ていることに。
「行ってみる?」
私が聞くと、その人は足を進めた。
週末なのに、一部屋だけ空いていた。部屋に入り、私はすぐソファに座った。ホッとしたため息、疲れたため息。私はその人に言った。
「あなたは今すぐベッドで寝て。私はここで適当に過ごすから。」
その人はネクタイをほどき、ジャケットと一緒にソファに投げ掛けた。その後、その人は私の隣に座った。長い長い沈黙。
「聞かないの?理由。」
その人は聞いてきた。私はまたため息をつく。
「聞いたって教えてくれないでしょ?」
「どうしてわかるの?」
また聞かれた。私は結衣を思う。
「最近、友達が自殺したの。一番仲良かった子。『ありがとう』って5文字だけ残して。」
私はまたため息。その時、私はため息しかしてなかった。
もう一度ため息をした後、その人はゆっくり私に抱き付いてきた。驚いたのはその人の体温。
「あなた…体冷たい…。」
最後の結衣の頬みたいだった。
「あったかい…。」
その人は言った。少しでもいい、気休めでもいい。体が暖まるよう、私はその人の背中を少しさすった。その間、私は『絶対寝ちゃいけない』ずっとそう思っていた。
「寝るよ。」
やっとその人はベッドに向かった。それでも心配だった。
(カミソリ、睡眠薬…。持ってないよね…。)
ため息。寝てしまえば、きっと大丈夫。そうであって欲しいと思った。
「久しぶりー!」
いつもの店。いつもの顔ぶれ。さらにホッとし、気が緩まる。今日は男3人、女3人か。
(あ、見たことない人がひとりいる。まぁいっか。)
すると、友人の1人がその見たことない人を紹介してきた。
「こいつ、オレの同期!よろしく!」
「よろしくー!」
みんな乾杯し盛り上がってる中、その人は話すどころかとにかく目立たず、透けて見えそうなくらいだった。
またいつもの仲間と会えた。よかった。嬉しい。和む。きっとここに結衣もいるだろう、いて欲しい。なんて、私らしくないことを思っていた。
帰る時間。私はこの後、部長と会う。はずだった。
先に店を出ていく男性陣。今日新しく来た人の後ろ姿。私は目を疑った。その人は真っ黒だった。影でもない、黒い服装なんじゃない。指先まで黒い、シルエットが真っ黒だった。
(…なに…?)
気になった私はその人を追った。気付かれないよう、注意を払って。私と同じ路線、同じ方面。ホームには思った以上に人がいて助かった。
人に紛れて私はその人に近付く。その人の少し離れた後ろに私は立った。その人はホームの端の端、ぼーっと正面を見ているのか見ていないのか、立っていた。
電車が来るアナウンスが流れた。ドキッとする私。電車の近付く音がしてきた。私の緊張は高まる。電車が見えてきた。私はその人を見る。電車の音が大きくなる。その人に近付く私の足音が目立たなくなる。その人は変わらず正面を見ていた。
電車が来た。その人の体はふわっと前に浮かんだ。
私はその人の腕をホーム側に力強く引っ張った。その人は体に力が入っていなかったのだろう、勢いよくふたりともホームに倒れ込んだ。息の上がる私に対して、その人は息をしていないように見えた。私と確かに目が合っているはずなのに、その人は私の目のそのずっと遠くを見ている目。
(この後、どうしよう…。)
ホームに駅員が来た。
「もう電車終わりましたよ。出てください。」
(え?終電だったの?)
その人はゆっくり立ち上がり、改札に向かおうとした。私はすぐに言った。
「どこ行くの?」
その人は何も言うことも、振り向くこともなく足を進める。私はついていった。心配しか頭になかった。その人は改札を出る。私も出た。
「家どこ?」
とりあえず家まで送る。そう思った。その人は言った。
「この駅じゃない。」
「え?」
「あと2駅下ったとこ。」
慌てて見たタクシー乗り場。人が並んでる。
「タクシー…。あ、じゃあどこかビジネスホテル…。」
金曜の夜。探したが、近場のビジネスホテルはどこも空いていなかった。
(どうしよう。どうすれば…。)
私が必死に考えているのに、その人はぼーっとしていた。少しムカッとした私は気付く。その人がラブホテルの看板を見ていることに。
「行ってみる?」
私が聞くと、その人は足を進めた。
週末なのに、一部屋だけ空いていた。部屋に入り、私はすぐソファに座った。ホッとしたため息、疲れたため息。私はその人に言った。
「あなたは今すぐベッドで寝て。私はここで適当に過ごすから。」
その人はネクタイをほどき、ジャケットと一緒にソファに投げ掛けた。その後、その人は私の隣に座った。長い長い沈黙。
「聞かないの?理由。」
その人は聞いてきた。私はまたため息をつく。
「聞いたって教えてくれないでしょ?」
「どうしてわかるの?」
また聞かれた。私は結衣を思う。
「最近、友達が自殺したの。一番仲良かった子。『ありがとう』って5文字だけ残して。」
私はまたため息。その時、私はため息しかしてなかった。
もう一度ため息をした後、その人はゆっくり私に抱き付いてきた。驚いたのはその人の体温。
「あなた…体冷たい…。」
最後の結衣の頬みたいだった。
「あったかい…。」
その人は言った。少しでもいい、気休めでもいい。体が暖まるよう、私はその人の背中を少しさすった。その間、私は『絶対寝ちゃいけない』ずっとそう思っていた。
「寝るよ。」
やっとその人はベッドに向かった。それでも心配だった。
(カミソリ、睡眠薬…。持ってないよね…。)
ため息。寝てしまえば、きっと大丈夫。そうであって欲しいと思った。