デアウベクシテ
第24話~プロムナード
 いつどこでも手を繋いでいるのに、その時私はいつもより強く賢人の手を握っていた。ベッドの中だというのに。

「どうしたの?彩華。」
「え?」
「何か考え事してる?」
「…んー…。」

 そう、私は考えていた。無意識のうちに。賢人に、何て言えばいいだろう。

「私達以外にも、『ふと』…とか、『よぎる』…とか…。そういう人、きっといるよね…。」
「そうかも…しれないね…。」
「なんか…そういうの、悲しいなって…。」
「そうだね…。」
「私が言える身じゃないけど、生意気にそんなこと思って…。」
「そんなことないよ彩華。彩華は優しい人だから。」

 賢人は私の髪を撫でてくれた。

「…悲しいことなんか…なくなればいいのに…。」

 生意気なことを言っても、私は無力なのは知っている。結衣のことも救えなかった。私には何もない。何も…何もない…?

「賢人…?」
「なに?彩華。」
「お金…。」
「お金?」
「あのお金、あの100万円。どこかに寄付するって、どう?」
「寄付?」
「そう。あのお金で、何かの為になるなら…誰かの…為になるなら…。…どう?どう思う?」

 賢人は優しく笑って答えてくれた。

「やっぱり彩華は優しい。」
「そんなんじゃ…。」
「調べてみよう。探してそこに寄付をしよう。そうしよう彩華。」

 私も笑う。きっとホッとしたの。

「なに?彩華」
「安心したの。安心が増えた。賢人がいてくれて、よかった…。」

 私は賢人の体を抱き締める。ただ賢人を感じたかった。

「彩華。」
「なに?」

 賢人も私を抱き締める。

「彩華、愛してるよ…。」
「私も…。」

 私達は調べた。色々迷った結果、大きな団体へ寄付をすることに決めた。銀行へ、賢人も一緒に。賢人は付き合ってくれた。私はお金を振り込み、口座の解約もした。これでひとつ、私にとっての要らない物がなくなった。

「あんな…あんな汚いお金でも、綺麗なモノに、なったかな…。」
「彩華の手に渡った時から、綺麗だったんだよ。」

 私は賢人を見上げる。賢人は微笑んでいた。

「ありがとう…賢人…。」

 賢人の言葉に救われた気がした。こんな気持ち、初めてかもしれない。

「彩華、区役所にも行きたいと思ってたんだ。行こう。」

 私達は区役所に行き、必要な書類を集める。賢人が手に取った婚姻届。現実味が増す。嬉しさも増した。

 夕日でオレンジ色に染まる街。手を繋いで歩くプロムナード。私は足を止め、しばらく夕日を見ていた。賢人も一緒に。プロムナードの下は、車が走っている。

 何かあるかもしれないと、お金と一緒に持ってきていた300万円の指輪。お金と一緒に失くせたら、そう思っていたのかもしれない。バッグから指輪の入ったボックスを取り出し、強く握る。それを私は車道に思い切り投げ捨てた。

 私は賢人に微笑み掛ける。賢人も微笑み、私の手を強く握った。

「帰ろう、彩華。」
「うん。」

 これでもう、私にとっての要らない物が全て消えた。邪魔な物が、心の中からもなくなった。これで私はやっと、賢人だけになった。

「賢人?」
「なに?彩華。」
「愛してるからね、賢人。」
「俺も愛してるよ、彩華。」
「賢人?」
「なに?彩華。」
「キスして。」

 オレンジ色に染まるプロムナード。賢人は夕日のような熱いキスをしてくれた。愛してるからね、賢人。だから賢人も、私を愛していて。
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