デアウベクシテ

第29話～朝陽

　朝になってた。コーヒーの良い香りで、私は目覚める。

「起きた？おはよう彩華。」
「…う…ん…。おはよ…。」
「寝ぼけてる彩華は可愛い。」
「いつもそう言う…。」

　そんな時、賢人はいつも私の頭をポンポンとする。

「けんと…。」
「その甘い声。可愛い、彩華。」
「もー…いつもそうやって…。」
「彩華も飲む？コーヒー。」

　新しいソファ、新しいテーブル、新しいマグカップ。美味しいコーヒーで、私の体が目覚める。

「美味しい、コーヒー…。」
「ハンドドリップ一式、買い替えたからね。」
「だからかな、前より美味しく感じてた…。」
「彩華に、わかってもらえて嬉しいな。」

　賢人は本当に嬉しそうだった。毎日一緒に飲もうね、コーヒー。ずっと一緒に飲もうね、賢人。

「彩華、寝心地はどう？」
「うん、良い。よく眠れる。」
「ベッドも枕も、沢山迷って決めた甲斐があったね。」
「うん…。」

　賢人の笑顔は、朝陽より明るかった。

「指輪ができたって連絡がまだないんだ。だから式をいつにするか決められない。」
「そっか…。」
「引っ越しも終わったし、籍を入れよう、彩華。」
「籍…。」

　私は賢人から目をそらし、うつむいてしまう。急に不安が押し寄せる。自信が薄れていく。どうして。どうしよう。

「彩華。また要らないこと考えてない？」

　賢人は私のことが何でもわかる。だから私は素直になれるの。

「…私…？…いいの…？」
「彩華、こっち見て。 」

　私は不安なまま賢人を見る。不安が消える言葉が朝陽と一緒に。

「彩華？俺を受け入れてくれたのは、彩華だけだ。俺達は出会うべくして出会った。」

　賢人がぼやけてくる。邪魔をしないで、涙。

「彩華。僕と結婚してください。」

　返事は決まってる。ちゃんと言って、私。笑って、私。

「はい…。」

　私は笑顔で返事をした。嬉しくて笑ったの。泣きながら笑ったの。賢人も笑う。私達は笑顔で抱き合った。

「賢人…？」
「なに？彩華。」
「ずっと一緒に飲もうね、コーヒー…。」
「もちろんだよ彩華。ずっと美味しいコーヒー、一緒に飲もう彩華。」

　眩しい朝。朝陽が私達を包んでくれた。