デアウベクシテ
第6話~取り除く
「ちょっと待ってて。すぐ戻る。」
私はそのまま賢人を待つことなく帰ればよかったのに、体が動かなかった。賢人に言われた言葉が私の胸をズキズキさせ、私の体は硬直していた。
「お待たせ。」
本当にすぐ戻ってきた。
「行こう。」
賢人は私の手を取る。
「離して!」
私は力を入れた。賢人は何も言わず、私の手を力強く握った。足を進める。
(なんで私、仲良くおてて繋いで歩いてるの?)
賢人は駅に向かう。駅まで送ってくれるだけ。そう思った。駅の一本手前、細い路地に賢人は入った。
「着いた。」
着いた所は小さな古い洋食屋。でも可愛らしく、温かみを感じた。
(いつからあるんだろう、この店。)
年期の入った外装。両側の建物の間、窮屈そうに建っていた。賢人は私の手を握ったまま店に入った。
「いらっしゃいませ。」
人が良さそうな50代くらいの女性が出迎えた。内装もテーブルも椅子も、店の作りも全て昔ならでは、って店。私達は窓際のテーブルに座った。
「はい。」
賢人がメニューを渡してきた。
「…賢人は見ないの?」
「俺は決まってる。」
メニュー表も古い。でも温かい。どのメニューも美味しそうだった。
「決まった?」
「うん。」
賢人は店員を呼び、注文する。
「アイスコーヒーとフレンチトーストお願いします。」
私は驚いた。同じだった。
「彩華は?」
「私も…アイスコーヒーとフレンチトーストを…。」
店員は笑顔で去っていく。
「彩華も好きなの?フレンチトースト。」
「うん…。」
「俺達、気が合うね。」
「別に…。」
私は頬杖をつく。窓を見た。微かに見えた、自分の顔。
「何見てるの?」
「自分の顔。ブスだなぁって。」
「彩華は綺麗だよ。」
そんな安い言葉はいらない。無視をした。
「悲しそうで笑わない女。酷い顔。」
「酷いだなんて、俺は思ってない。」
(どうしよう、この人。適当にあしらって…。)
「私、不倫してるの。」
「それで?」
「それでって…。驚かないの?」
「もしかしたらって思った。昨日、ホテルで。」
「どうして?」
「俺も寝てなかったんだ。」
「そんなはずない。大人しく寝てたじゃない。私見た…。」
賢人は私を無視した。
「金曜、真夜中。誰かに慌ててラインする。しなきゃいけないように。」
(鋭い。どうしよう。)
「それなのに…どうして私のこと好きって言えるの?」
「俺が彩華を救う。」
「え?」
「彩華が俺を救ってくれたように、俺も彩華を救う。」
「何言ってるの…?」
「彩華から『悲しい』を取り除く。」
私はドキッとした。賢人の言葉がわからない。でも確かに私はドキッとした。どうして。立場が逆になってるのは、どうして。
「賢人には…関係ない…。」
「関係ある。」
「どうして?」
「彩華が好きだから。」
私はため息をついた。
「そんなに何度も『好き』って言ってたら、その言葉の価値が下がる。」
「そういうことじゃない。」
(何て人。呆れる。)
「じゃあどういうこと?」
「後悔したくない。昨日の俺みたいに、何か『ふと』って彩華が思うことがあるかもしれない。だから言いたい時に言いたいこと、言いたいと思った。彩華が助けてくれなかったら、知らなかったことだよ。」
私は胸が苦しくなった。どうして。
「お待たせ致しました。今日はお二人なのね。クリーム、多めにしといたわ。ごゆっくり。」
店員は笑っていた。なんて優しい笑顔。やっぱり良い人だった。
「食べよう、彩華。美味しいよ。」
優しい笑顔のフレンチトーストは、とても美味しそうだった。そういえば賢人は私の名前もよく呼ぶ。私は賢人とこの美味しそうなフレンチトーストを、一緒に食べる資格はあるのだろうか。
「そんなに何度も『好き』って言われたら、本当かどうか、わからなくなる。不安になる…。」
「彩華。」
私はまた無視をした。
「彩華。」
もう一度呼んできた。仕方なく賢人を見る。賢人は私を見つめていた。部長以外の男にベッド以外の場所で見つめられる。変な感じ。何だろう、この感じ。
「言っただろ?彩華のその『不安』を俺は消す。彩華の悲しい、寂しい、苦しい、それを消すんだ。」
私は目線を下に向ける。美味しそうなフレンチトースト。私はゆっくりフォークとナイフを手に取る。一口食べる。優しい味。
「美味しい…。」
「彩華?」
「なに?」
「彩華、今笑った。」
「嘘…。」
「少しだけ。笑った。」
賢人は嬉しそうだった。
私はそのまま賢人を待つことなく帰ればよかったのに、体が動かなかった。賢人に言われた言葉が私の胸をズキズキさせ、私の体は硬直していた。
「お待たせ。」
本当にすぐ戻ってきた。
「行こう。」
賢人は私の手を取る。
「離して!」
私は力を入れた。賢人は何も言わず、私の手を力強く握った。足を進める。
(なんで私、仲良くおてて繋いで歩いてるの?)
賢人は駅に向かう。駅まで送ってくれるだけ。そう思った。駅の一本手前、細い路地に賢人は入った。
「着いた。」
着いた所は小さな古い洋食屋。でも可愛らしく、温かみを感じた。
(いつからあるんだろう、この店。)
年期の入った外装。両側の建物の間、窮屈そうに建っていた。賢人は私の手を握ったまま店に入った。
「いらっしゃいませ。」
人が良さそうな50代くらいの女性が出迎えた。内装もテーブルも椅子も、店の作りも全て昔ならでは、って店。私達は窓際のテーブルに座った。
「はい。」
賢人がメニューを渡してきた。
「…賢人は見ないの?」
「俺は決まってる。」
メニュー表も古い。でも温かい。どのメニューも美味しそうだった。
「決まった?」
「うん。」
賢人は店員を呼び、注文する。
「アイスコーヒーとフレンチトーストお願いします。」
私は驚いた。同じだった。
「彩華は?」
「私も…アイスコーヒーとフレンチトーストを…。」
店員は笑顔で去っていく。
「彩華も好きなの?フレンチトースト。」
「うん…。」
「俺達、気が合うね。」
「別に…。」
私は頬杖をつく。窓を見た。微かに見えた、自分の顔。
「何見てるの?」
「自分の顔。ブスだなぁって。」
「彩華は綺麗だよ。」
そんな安い言葉はいらない。無視をした。
「悲しそうで笑わない女。酷い顔。」
「酷いだなんて、俺は思ってない。」
(どうしよう、この人。適当にあしらって…。)
「私、不倫してるの。」
「それで?」
「それでって…。驚かないの?」
「もしかしたらって思った。昨日、ホテルで。」
「どうして?」
「俺も寝てなかったんだ。」
「そんなはずない。大人しく寝てたじゃない。私見た…。」
賢人は私を無視した。
「金曜、真夜中。誰かに慌ててラインする。しなきゃいけないように。」
(鋭い。どうしよう。)
「それなのに…どうして私のこと好きって言えるの?」
「俺が彩華を救う。」
「え?」
「彩華が俺を救ってくれたように、俺も彩華を救う。」
「何言ってるの…?」
「彩華から『悲しい』を取り除く。」
私はドキッとした。賢人の言葉がわからない。でも確かに私はドキッとした。どうして。立場が逆になってるのは、どうして。
「賢人には…関係ない…。」
「関係ある。」
「どうして?」
「彩華が好きだから。」
私はため息をついた。
「そんなに何度も『好き』って言ってたら、その言葉の価値が下がる。」
「そういうことじゃない。」
(何て人。呆れる。)
「じゃあどういうこと?」
「後悔したくない。昨日の俺みたいに、何か『ふと』って彩華が思うことがあるかもしれない。だから言いたい時に言いたいこと、言いたいと思った。彩華が助けてくれなかったら、知らなかったことだよ。」
私は胸が苦しくなった。どうして。
「お待たせ致しました。今日はお二人なのね。クリーム、多めにしといたわ。ごゆっくり。」
店員は笑っていた。なんて優しい笑顔。やっぱり良い人だった。
「食べよう、彩華。美味しいよ。」
優しい笑顔のフレンチトーストは、とても美味しそうだった。そういえば賢人は私の名前もよく呼ぶ。私は賢人とこの美味しそうなフレンチトーストを、一緒に食べる資格はあるのだろうか。
「そんなに何度も『好き』って言われたら、本当かどうか、わからなくなる。不安になる…。」
「彩華。」
私はまた無視をした。
「彩華。」
もう一度呼んできた。仕方なく賢人を見る。賢人は私を見つめていた。部長以外の男にベッド以外の場所で見つめられる。変な感じ。何だろう、この感じ。
「言っただろ?彩華のその『不安』を俺は消す。彩華の悲しい、寂しい、苦しい、それを消すんだ。」
私は目線を下に向ける。美味しそうなフレンチトースト。私はゆっくりフォークとナイフを手に取る。一口食べる。優しい味。
「美味しい…。」
「彩華?」
「なに?」
「彩華、今笑った。」
「嘘…。」
「少しだけ。笑った。」
賢人は嬉しそうだった。