空よりも海よりもキミのことを知りたかった。
颯翔くんと樹くんに家の近くまで送ってもらって帰宅した。

玄関には久しぶりに他より大きな革靴が並んでいた。

私は下駄を脱ぎ、明日洗うのを忘れないように目に入りやすい位置に置くとリビングに続くドアを開けた。


「ただいま」


私の声に反応して顔にパックをしながらテレビを見ていた母がソファから立ち上がった。


「お帰り碧萌。遅かったじゃない!こんなに汚して~。何やってたのよ?」

「海くんたちとはぐれて迷子になっちゃって。必死に探し回ってたら、転んじゃったんだ」

「全く、昔からほんとぉに方向音痴がひどくて困っちゃうわ」

「あはははは」


と、笑って誤魔化していると、ぬうっとスウェット姿の腹だけが大きい男が現れた。

妊娠何ヵ月かと問いたくなる。

久しぶりに見たけどまた太ったな、このオヤジ。


「碧萌、久しぶりじゃないか!元気にしてたか?」

「元気だよ。2ヶ月ぶりくらい?」

「最後に会ったのが6月8日だから、まあだいたいそんなもんか。今回はすごいぞ。シンガポールのお土産だ」

「そう。ありがとう」


私の父はお腹はだらしないけれど、仕事は出来るようで、大手家電メーカーに勤務し、営業本部長をしている。

あの雨の日は新幹線に乗って東北まで営業に行っていたらしく、その後は日本の技術を世界にも伝えるという名目で約1ヶ月間シンガポールに行って技術の伝承と向こうの技術の偵察をしてきたよう。

忙しい毎日を送っているため、私達とはあまり会うことはない。

昔からそれはあまり変わらない。

だからこそ、父と会える日や父と出かける日はうきうきしたのだ。

普段いない人がいるとやはり特別感から心も高揚してくるのだ。


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