空よりも海よりもキミのことを知りたかった。
しばらく道は直線で互いに黙る。

なんでこんなことになってるんだろう。

私よりも軽そうな彼におんぶされて、雨に打たれて...。

雨で透けたシャツから颯翔くんの素肌が覗き、胸がドキドキしてくる。

胸の鼓動を抑えようと目を瞑り、別のことを考えようとしてもできなくて。

ひとつ、ごめんなさいって思って。

あともうひとつ、リュック2つと50キロ女を一手に引き受けてくれてありがとうって思って。

言葉にするのはなんとなく出来ないまま、
この状況を改めて不思議に思いながら揺られている内に見覚えのある住宅地が見えてきた。

あの白い家の10軒先に砂原家、その向かい側に面していて砂原家から5軒先に我が家がある。


「そろそろです...」

「そ」


素っ気ないけど、優しいのは分かった。

手紙をしつこく送る暑苦しいストーカー勘違い女を見捨てなかった。

その事実だけで、私の胸は温かい。

そして遂にその時はやって来た。


――ピンポーン!


インターホンは空気を読まない天才だ。

どう考えてもこんな明るいテンションじゃないでしょう。

水溜まりに街灯の光が映り、どことなく幻想的だというのに。


「はーい!...って、うぇっ?!」


元気が取り柄の家の母が上下ダサい紺のジャージ姿でお出迎えした。


「名波颯翔と申します。私のせいで娘さんがこんなことになってしまいました。すみません」

「いいから、いいから、早く入って。今、タオル持ってくるから」


母はぴょんぴょん跳ねながら浴室に向かっていった。

そして、その日は、私にとって忘れられない日となった。

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