空よりも海よりもキミのことを知りたかった。
「すみません、お風呂場貸してもらった上に服まで」

「いいの、いいの。気にしないで。たまたまお父さんが雨で出張先から帰って来られなくなっちゃってねぇ」


母がイケメンをお目にかかれて嬉しそうに微笑む。

颯翔くんのスウェット姿も神々しい。

お父さんのスウェットも着る人が変わればこんなにもカッコよくなるんだ...。

私が口をぽかんと開け、思考停止していると母が近づいてきて、私にそっと耳打ちした。


「あんたいつこんなイケメンと知り合ったのよ?後でちゃんと話しなさいよ」

「はいはい...」


私が一方的に好意を持ち近づいたなんて知ったら母はどんな顔をするだろう。

遂に野獣化したとか思われるのかな?


「お礼も出来ず、服もお貸し頂いたままですが、すみません。僕はこれで失礼します」

「帰るってどうやって?電車もバスも止まってるわよ」

「えっ...」

「ほら、ニュース見て」


我が家のテレビに映し出されたのは帰宅困難者が長蛇の列を作り、タクシーを待つ様子だった。

途中で離脱し、諦めて歩いて帰ろうとする人もいるみたいだが、避難所として公民館や学校の体育館を無料開放しているところもあるらしい。


「今出ていっても危険だから交通機関が動き出すまではここにいていいわよ。お父さんの部屋を使って」

「いや、でも...」

「大丈夫。娘を襲わなければ私も何も言わないわ」

「ちょ、ちょっとお母さんっ!颯翔くんに失礼だよ!」


そんな関係じゃないから。

まともに話したこともないんだから。

勝手に妄想膨らませないでよ。


「あら、ごめんなさい。ふふふっ」


笑って誤魔化すな!


「じゃあワタシはもう寝るわね。明日も仕事だから。夕飯はテーブルの上にあるもの食べてね」


母はそれだけ言うと自分の部屋に足早に去っていった。

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