上司は優しい幼なじみ
「それじゃあ、俺は社長室行ってくるから、陽菜は残りの仕事頑張って」

「あ、うん。ありがとう」

それだけ言い残し、たっくんはさっさと出ていってしまった。
ぽつんと佇む私。まるで嵐のような一瞬の出来事だった。

そこで私は少し違和感を覚える。
それは、先ほどたっくんが放ったセリフだ。

’戻ったら、結婚しようって言ったよね?’

あの時たっくんはさらっと言って、私もさらっと返したけれど。
今、彼はまさに’戻って来た’状態だ。

でも、あのセリフは過去の会話を再現したものであって、今実際にプロポーズされたわけではない。

私が元々抱えていた疑問と不安だけを取り除き、彼は行ってしまった。


「…ん?」

モヤモヤを残したままフロアに戻り、業務を再開させた。

一緒に帰ろうと言われたわけでもない。
多分、今日は各々のタイミングでそれぞれの帰路につくのだろう。

深く考えても埒が明かない。
たっくんが帰って来ただけ幸せじゃないか。

そう自分に言い聞かせ、自分も驚くくらいのスピードで次々処理していった。

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