魔界レストランをバズらせます〜転生少女の立ち退き撤回奮闘記〜
その問いに、彼は困ったような表情を浮かべた。
立ち入ったことを聞いて申し訳なく思う気持ちもあるが、昨日の“嘘”が引っかかる。じっと見つめると、ヴァルトさんはティーカップを置いた。
「言っただろう?俺は味覚が狂ってしまったんだ。もう、シェフとしてお客さんを喜ばせる料理は作れないんだよ」
「でも、ヴァルトさんは本当は血を飲んだりしていないんでしょう?」
私の言葉に、かすかに薔薇色の瞳が見開かれた。しかし、それは一瞬で、すぐにいつもの仮面に戻る。
「やれやれ。何を根拠にそんなことを」
「あなたからは血の匂いがしないとルキが言っていました。どうしてそんな嘘をつくんです?断るなら、本当の理由を教えてください」
意を決して本題に切り込むと、長い沈黙が流れた。
ヴァルトさんは、こちらに引き下がるつもりがないことを察したらしい。白旗をあげたように息を吐いた彼は、微かに顔を伏せて呟いた。
「人間界に戻りたくないんだ。俺は、シェフとしての自分を捨てたから」
どういうこと?
予想外の言葉に戸惑っていると、穏やかな声が紡がれる。
「七十年前、俺がペルグレッドの都市でシェフをしていたのは知っているんだろう?そこは地元の常連だけが通うような小さなダイニングバーでね。夜しか営業しないから都合がよかった。俺は、そこで人間のフリをして働いていたんだ」