魔界レストランをバズらせます〜転生少女の立ち退き撤回奮闘記〜
ストーカーなんて。どの世界にも悪い奴はいるんだな。
それに、自らも相当美形なヴァンパイアが“綺麗”と褒めるほど麗しい女性なら、変な虫がついてもおかしくない。
ヴァルトさんは、険しい表情で語り続ける。
「噂を聞いて数日後、ついにストーカーが店に来てね。明らかに不審な若い男で、レベッカを待ち伏せているようだったから、俺はゴミ捨てをするフリをして店の裏手に回って声をかけたんだ」
「なるほど。彼女に気付かれないように、追い払おうとしたんですね」
「そう。結構しぶとい奴でさ。やめろって言ったくらいじゃ聞かなかった」
「まさか、喧嘩になったんですか?」
すると、ヴァルトさんはにこりと笑う。
「うん。つい、脅して噛みついちゃった」
「え!?」
「はは。すごく驚いてたよ。腰が抜けてたね」
「で、でしょうね…」
ヴァルトさんは、眉を下げて俯いた。
「でもその時、小さな悲鳴が聞こえてね。視界に映ったのは、真っ青な顔をしたレベッカだった。…七十年前の雨の夜。怯えたような彼女の顔は今でも覚えてる」
しぃんと部屋が静まりかえった。
その言葉に声が出なかった。
寂しそうで、悲しそうで、やりきれないような薔薇色の瞳が揺れている。
「俺がヴァンパイアだと知られた後、彼女は二度と来なくなった。それからだよ。俺がシェフを辞めたのは。彼女を待っている自分が嫌になって、店をたたんだ。何を食べても美味しく感じなくて、料理に対する気持ちも失せた。だから、俺は君のレストランでは働けない」
ごめんね、と弱々しく笑った彼。
彼の隠していた過去は、想像よりもずっと繊細な悲しみの記憶だった。
「今日はこれでお終い。さ、玄関まで送るよ」
私は何も返す言葉が見つからず、黙って頷くことしかできなかった。