魔界レストランをバズらせます〜転生少女の立ち退き撤回奮闘記〜
短い息遣いが聞こえた。
こちらに背を向けた彼は、どんな顔をしているのだろう。
「…そっか…」
ヴァルトさんは、吐息混じりに呟いた。
ふたりが冷たい雨の夜に別れてから七十年。
それは人間にとって気が遠くなるほど長い年月だが、魔界の住人からしてみれば一瞬。
流れる時の重さが違う。
「人は…なんて儚い生き物なんだろうね」
ぽつりと響く低い声。
感情を悟らせないそのトーンは、少し震えていた。
静まり返るレストラン。ルキもケットも、何も言わずにふたりを見守っていた。
すると、ヴァルトさんはわずかに膝を屈めた。
彼女と目線を合わせ、優しく微笑む。
「今日は来てくれてありがとう。君に会えてよかった。…困ったな。大切なお客さんをもてなしもせずに帰せない」
こちらを振り返った彼は、覚悟を決めた料理人の顔だった。
「ミレーナちゃん。キッチン、借りてもいいかな」
吹っ切れたような声。
髪をまとめなおしてシャツをまくるヴァルトさんに、私は大きく頷いた。