清廉で愛おしい泡沫の夏
中に入ろうか
 着いたのは、海の見える大きな工場だった。
 廃工場、かな?
 バイクから降りると、先に到着していた美泡たちが待っていた。
 「さ、中に入ろうか。」
 バイクを置きに行った黒髪男を待ち、4人が揃ったところで青髪男が言った。
 正面の大きなシャッターではなく、端にある扉へ向かっていく。
 
 中は、とても広くて、たくさんの人がいて、
 「「「「お疲れ様です‼」」」」
 私たちが入ってくると、そこにいた大勢の人が、立ち上がり、挨拶をした。
 す、すごいなぁ、、、
 と、その空気に気圧|《けお》され、美泡も私も思わず、立ち止まった。
 けれど、そんな中を黒髪男は、真顔で、颯爽と歩いていく。
 あ、あの人、何者⁉
 「さ、進んで、進んで」
 立ち止まる私たちを、後ろから青髪男が促す。
 恐る恐る一歩を踏み出す。
 朝の自己紹介の時よりも突き刺さる好奇の視線。
 教室よりもずっと多くの色。
 髪色にピアスに、服、そしてバイク。
 お、恐ろしいよ~、、

 おどおどしながら歩みを進め、二階への階段を上っていく。
 黒髪男はあるドアの前で足を止め、こちらを振り返る。
 その顔は、うっすらと口角が上がっているように見えた。
 わ、笑ってる、、???
 でもまたすぐに真顔になって、扉を開ける。
 私の見間違いかな、、? 幻??
 それとも、普通に笑う人なの?ずっと真顔なのは、笑顔なの???
 なんかよくわかんない人だ…

 部屋の中には、コの字型に並べられたソファーと、真ん中に机。
 正面のソファーには黒髪男、右のソファーには赤髪の男。
 ま、また男の子が増えた…
 「2人はそっちに座って。」
 青髪男が、左側のソファーを指さし、私たちに声をかけた。
 そして、青髪男は、赤髪の男の隣に腰を下ろす。
 私も美泡と並んで、腰を下ろした。
  
 「改めまして、僕は君原総|《きみはらそう》。よろしくね。」
 先ほどのような不敵な笑みではなく、いたって普通の笑顔で、青髪男は言った。
 「戸澤廉|《とざわれん》だ。」
 ぼそっとつぶやくように黒髪男が真顔で言う。
 「こっちは新井要|《あらいかなめ》。」
 赤髪の男を指さして、青髪の総が言った。
 赤髪の要は、ずっと携帯をいじっていて、こちらを見ることもしない。
 自己紹介くらい自分でやりなさいよ、失礼ね。
 「君たちの名前も聞いていいかな。」
 「えぇ、あたしは西城美泡よ。美しい泡って書いて、みうって読むの。」
 「…西城美夏です。美しい夏…」
 美泡はなんでこんなに素直にこの人たちに従うんだろう。。。
 早く、家に帰りたいな…
  
 バンッ!!
 
 え、なに⁉
 突然の音に心臓が飛び出しそうになるのをなんとか抑え、音のしたほうを見る。
 それは、金かと思うほどに明るい茶髪をした男の子が、勢いよく部屋の扉を開ける音だった。
 
 「女の子!!」
 
 私たちよりも少し大きいくらいの身長の彼は、私たちを見るなり、そう叫んだ。
 いや、女の子だけども、、、
 女の子なんてどこにでもいるでしょう、、?
 「琉、ドアはもっと静かに開けろと言っているだろう。」
 「はい!ごめんなさい!」
 と、とても素直な子なのね…
 「こんにちは!琉|《りゅう》です!」
 琉と呼ばれた男の子は、総に怒られたのを気にする様子もなく、すぐにこちらに向き直り、きらきらとした笑顔で自己紹介をする。
 「美泡よ、よろしくね。」
 「美夏です…」
 美泡が自己紹介をしたので私もそれに続く。
 「よろしくお願いします!」
 と、琉が元気に言った。

 「さて、これで全員揃った。」
 そう総が言った。
 「気づいているかもしれないけど、ここは、俺たち、暴走族のたまり場だ。俺たちの名前は、龍星。ここにいる4人は、龍星の、最高幹部だ。」
 暴走族なんだ。。。暴走族か。。何となくそうかなとは思ってたけど。。。
 「そう、なんとなく予想はしてたわ。」
 相変わらず美泡は冷静だな、、
 「それで?これからあたしたちをどうするつもりかしら?」
 「別にどうもしないよ。暴走族って聞くと悪いイメージが強いかもしれないけど、俺たちは、平和に、だけどちょっとだけ派手に青春過ごそうぜ、っていう集まりだからさ。で、2人も一緒にそんな青春を過ごさないかな、って思って誘っただけさ。」
 「そんな青春感溢れる誘い方をされた覚えはないわね。」
 総の言葉に美泡が笑って返した。
 美泡は余裕ね、いつものことだけど。。

 「あたしたち2人でいればそれだけで、充分幸せなのよね。」
 と、美泡が、今度は廉に挑戦的な笑みを向ける。
 私を凝視することには、さすがに飽きたのか、ずっと何かを考えているようだった廉が、美泡を見つめ返す。
 「あたしたち、派手な青春に興味ないのよ」
 と、美泡が廉を見つめてもう一度、挑戦的に言う。
 「…」
 廉は、美泡を見つめたまま何も言わない。
 …人を見つめるのが癖とかなのかな???

 「…Darkに狙われる前に、ここに置いて、お前たちを…守りたい…。」
 しゃ、しゃべった…
 てか、3人もすごい驚いてる、、、要なんてさっきまで見向きもしなかったくせに、廉がしゃべりだした瞬間から携帯から目を離して、口を半開きにしている。
 驚いてないのは美泡だけだ。満足そうに笑っている。
 美泡はいつも楽しそうだな。。これから起こること全部予想ついてるんじゃないかってくらいいつも冷静だし。。うちの姉は、仙人かなんかなのだろうか。。。

 「えっと、、、Darkっていうのはうちと敵対してる暴走族のチームで、まぁちょっと派手が過ぎるというか、お世辞にも平和とは言えないチームでね。」
 総が、廉の発言に少し戸惑いながらも説明してくれた。
 「うちの学校はほとんどが龍星かDarkに属している。まあ全然関係ない人ももちろんいるけどね。2人は珍しい転校生だし、狙われる可能性が高い。だからDarkに狙われる前に、僕らが2人を守りたいって話。」
 転校生は、狙われるのか。。。暴走族から身を守るために、暴走族に身を置く、、? なんか変よね。。。
 「ふーん…、でもあたしたち、自分の身くらい自分で守れるわ。」
 また、美泡は楽しそうだわ。。何を企んでいるのかしら。。。
 「ねぇ、美夏?」
 えっ、突然私⁉
 「えっ、えっと、そ、そうだね。」
 完全に油断してた。まさか私に振られると思ってなかった…
 「いや、でも、女の子の力だと、限界もあると思うし、Darkに捕まってひどいことされるかもしれないんだよ?」
 総が美泡の返しは完全に予想外だというように戸惑いながら話した。
 「そうね。わかってるわ。」
 相変わらず楽しそうな美泡。
 
 「じゃあ、1か月だけにしたら!」

 突然、元気に提案したのは、ずっとドアの傍に立っていた琉だった。
 「1か月?」
 「そう!俺たち1か月中にDarkをぶっ潰す!だから、1か月だけ俺らのとこにいてくださいよ!」
 「ちょ、琉、そんな勝手な、、」
 「ふふっ。かわいい顔して血の気が多いのね。いいわ。1か月だけよ。」
 うわぁ、、美泡ったら今日一番に楽しいって顔してるわ。
 なにを考えているのかしら。。。
 「美夏もそれでいい?」
 「あ、うん。いいよ。」
 「じゃあ決まりね。今日はこれでおしまい?」
 「え?、、あ、うん。そうだね。送るよ。」
 と言って総が立ち上がる。
 美泡も続いて立ち上がったので、私も立ち上がると、美泡が廉のほうを見て、
 「しっかりね?」
 と、また挑戦的に、意味深に、言った。
 廉は何も言わず、ただ美泡を見つめている。
 美泡は少し笑って、振り向き、ドアに向かう。
 美泡の言葉が何を意味しているのかは、分からないけど、とりあえず、美泡を追って部屋から出る。
 ドアを閉めようと振り返ると、
 「わっ、」
 廉が立っていた。
 さっきまで座っていたはずなのに、いつの間に、、
 驚いて思わず声が出ちゃったよ…
 しかもすごく見つめてくる。
 凝視再開⁉
 こわいこわい、、、
 すぐにドアから手を放して、美泡のもとへ走る。


 

 こわい、、こわいよ、、みうぅぅぅぅ、、
 美泡は今、総と携帯のナビを見ながら、話し中だ。
 さっきの部屋を出て、カラフルな人とバイクの中をおどおどと通り抜け、やっと外に出たというのに、美泡は総と家への帰り道を調べている。
 そして美泡と総の後ろでちょこんと待っていた、私の隣に、、廉。
 やっぱり私を見つめている。
 あんまりこっちを見ないで、、、
 「OKよ。行きましょうか。」
 美泡がこちらを振り向く。
 助かった。。これで家に帰れる!

 、、、ってもしかしてバイク、、??
 いつの間にか廉と総は自分たちのバイクを引いていた。
 も、もしかしなくてもバイクだ、、、
 え、廉の後ろに乗るの、、?
 いやだ、、こわいよぉ、、
 と美泡に目で訴えるも、がんばってね♪と字幕が見えるほどにわかりやすいウインクを残して、早々に行ってしまった。
 美泡の薄情者…

 「早く乗れ。追いつけなくなる。」
 わ、わかってるわよ。
 凄まないでよ、怖いから。
 くぅぅ、、!もう助けてくれる人はいない!がんばれ、美夏!
 勇気を出して廉の後ろに乗る。
 「行くぞ。」
 、、ってはやい!!乗った瞬間走り出すなんて、、、
 この人、鬼だわ。。

  






 
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