青春ヒロイズム
「こんな甘いのいらねーよ」
低い声が響いて、差し出したふたつの紙パックが地面に落とされる。
その衝撃で、イチゴミルクのパックの角がぐしゃりと潰れた。
その一連の流れを横で見ていたもうひとりが、何が面白いのか愉しそうにケラケラと笑う。
汚れて転がっている変形したイチゴミルクが、私を惨めな気持ちにさせた。
こんなことになるなら、余計なことをしなければよかった。
村田さんが野宮さんたちにされてたことなんて、いつものように見て見ないふりをしておけばよかった。
そうすれば、今こんなことになっていなかったのに。
「貸せよ、財布」
地面に転がるイチゴミルクを見つめて無言になった私の手から、目の前の男が乱暴に財布を奪い取る。
そいつが私の許可なく勝手に財布を開けようとしたとき、後ろから声がした。
「なに女の子にたかってんですか、先輩たち」
「は?」
目の前の男子たちが、同時に怪訝な顔をする。
よかった、他に生徒がいたんだ。