青春ヒロイズム


「先輩たちこそ、こんなことしてていいんですか?今、この辺でいっぱい体育祭の練習してるから、先生たちも見回ってますよ?」

星野くんがふたりの先輩たちの顔を交互に見て、少し口角を引き上げる。


「ここ使って練習できるのはあと三十分だからなー」

そのとき、食堂の裏の中庭から見回りの先生の大きな声が聞こえてきた。


「今日食堂の周りを見回ってるのは、生徒指導の高嶋先生みたいですよ」

生徒指導って、編入の挨拶のときに校長先生の横にいた強面の先生のことか。

その顔を思い出していると、それまで威勢の良かった先輩たちの顔色が変わった。


「おい、もう行こうぜ」

私がぶつかったほうの先輩が、もうひとりにせっつかれて小さく舌打ちする。

そうして不機嫌そうに私たちを睨むと、足早に去って行った。


「これ」

ふたりの先輩たちがいなくなると、星野くんが持っていた財布を私に差し出してきた。

すぐに受け取ろうとしたけれど、指先が痺れるように小さく震える。

先輩達と対峙しているときには自覚がなかったけど、思っていた以上に恐怖を感じていたらしい。

星野くんが気付いてくれなかったら、どうなっていたか……。

想像するだけで、背筋が冷えた。

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