本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
「あの、お金払います!」

「いいよ、俺が誘ったんだし…。それより、腹減らないか?」

私が預けていたバックを受け取っている時には既に、カード払いでスムーズに支払いを済ませてくれていた支配人。美容室を出た後に財布を取り出すと頑なに拒否をされた。

時刻は午後二時半に近い。

仕事上、お昼時間はまちまちで遅い食事も慣れっ子だったので気にはしてなかったが、言われてみればお腹が空いたかも?

助手席に座り、ベルトを締めた後に

「お昼は出します!」

と気合いを入れて支配人に言った。

「バーカッ!俺は女に払わせる事は致しません!」

と言われて、コツンと拳で軽く頭を叩かれる。

「それに…俺が誘ったんだから、大人しく着いてくればいい」

話の流れから私の方を見て、柔らかな笑みを落とす。

私はドキドキと鼓動が早くなるのを感じて返事も出来ずに顔を反らすと、頬に手を触れられて支配人の方向に顔を向けられた。「綺麗になったな…」

顎に手を触れられ、上に少しだけ傾けられると親指で唇をなぞるように触れた。

「………っ、」

緊張し過ぎて、目を思い切り閉じると唇から親指が離されたので、うっすらと目を開けた。

「お前の上目遣いは男を煽る。俺を煽ってどうする気だ?」

「……煽って、など…いません」

何気なく目を開けた時に上目遣いで見ていたらしく、支配人に咎められ、絞り出すような小さな声で否定をした。

支配人の綺麗な顔が間近にあり、目と目が合って逃れられない。

耳まで赤くなっているのが自分でも分かる程、顔全体に火照りを感じる。
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