強引な副社長の婚前指南～偽りの極甘同居が始まります～

副社長に恋人になってもらおうなんて虫のいい話、初めからうまくいくはずなかったのよ。しかも副社長は、関係を持ってしまったことへの責任を取ろうとしただけ。私にその記憶がないんだから、責任も何もない。
　
これでいい──。
　
そう思ってホッとした自分がいる反面、心の隅に何故か悲しくて泣きそうな自分もいることに気づいて胸が強く締め付けられる。

「わけがわかんないよ……」
　
ボソッとそう呟いたのと同時に、腕を引かれ引き寄せられた身体が抱きしめられた。
　
なんで？　もう私のことは放っといてよ……。
　
腕の中で小さく丸まっていると、ふっと笑みを漏らした八雲さんが優しい声で話し出す。

「なあ芳奈って、いいたことを我慢しちゃうタイプ？　さっきも何か言いたいのを我慢して、唇噛んでたよな。今だって何も言わずに帰ろうとした、違うか？」
　
八雲さんは私の体を少し離すと、身を屈めて私の顔を覗き込んだ。

「それは……」

「まあ察するに、俺の発言がそうさせたんだと思うけど。憶測で物事を勝手に考えるのは、芳奈の悪い癖だな」