強引な副社長の婚前指南～偽りの極甘同居が始まります～

普段会社にいるときと違った、ラフな髪型の八雲さんに心が高鳴る。それがどうしてなのかわからなくて、慌てて目を伏せた。

「緊張？　何、俺がカッコよすぎてとか？　ねえ芳奈、俺の目を見て答えて」
　
八雲さんは私の顎に人差し指を当て、顔をクイッと上げる。彼のニヤリと弧を描くふたつの瞳に捉えられ、瞬きするのも忘れてしまう。

「そ、それは……」
　
目にじわりと涙が滲み、目尻から一粒ぽろっとこぼれ落ちる。これは一体、なんの涙なんだろう。

「悪い。泣かせるつもりはなかったんだけどな。今日の芳奈が可愛すぎて、少し調子に乗った」
　
手を引かれ車まで連れて行かれると、助手席に押し込まれる。車の前を回り八雲さんも運転席に乗り込み、何も言わずに私をギュッと抱きしめた。何？と思う間もなく唇が重ねられる。

「デートはキスから始まる。覚えておいて」
　
唇をわずかに離した八雲さんはいつもより少し低い声でそう言うと、もう一度唇を重ねる。

何度か角度を変えて食むようなキスをすると、チュッと音を立てて名残惜しそうに唇が離された。

息苦しさにプハッと息を吸い込み、酸素が不足した脳にそれを送り込む。