強引な副社長の婚前指南～偽りの極甘同居が始まります～

「ふ～ん。でもそこは『八雲さんのためです』って照れて言うのが、恋人としての正解じゃない？」

「あ……」
　
そうだった。なんのためにここへ来ているのか、すぐに忘れてしまう。八雲さんのことを意識しすぎると、なんだか身体がおかしなことになるし。意識しなければしないで、恋人だということを忘れる始末。
　
明日のための訓練だというのにうまくいかない、八雲さんの偽りの彼女になるというのもなかなか難しい。こんな調子で本当に、明日をうまくやり過ごせるんだろうか……。

「芳奈」
　
不意に八雲さんが私の名前を呼ぶ。「はい？」と上げた唇に、柔らかい唇が重なった。

「や、ややや八雲さん!?　こんなところでキス……」
　
慌てて周りをキョロキョロ見渡すが、そばに人はいないしこっちを見ている人もいなくてほっと肩を撫で下ろす。大きなため息をつくと、八雲さんをキッと睨みつけた。

「いくら恋人の特訓でも、いきなりのキスは反則です」